第6回 平原まことさん(Sax)


 第六回目は、今、日本のスタジオ録音の仕事でサックスのファーストコールというと、まずこの人、という位すごいサックス・プレイヤー「平原まこと」さんの登場です。数多くのアーティスト、編曲家からそのお人柄も含めて絶大な信頼を寄せられてらっしゃいます。
 文中にも登場しますが、リーダー作「月の癒し」では、ほとんどの曲をソプラノサックスで淡々とメロディーをつづられていて、非常に心身ともにリラックスさせてくれる良いアルバムです。是非聴いてみて下さい。(ご注文は下にリンクのある平原さんのHPから出来ます)
 今回もキャノンボール・あ・誰?さんによる力作です。ページごと保存してごゆっくりお読み下さい。


平原さん
1952年5月2日 大阪生まれ
血液型:明るいA

使用楽器

sopranino sax: France Selmer/ mark 6/ silver
mouthpiece : Selmer

soprano sax: France Selmer/ mark 6/ silver
mouthpiece : Selmer C* old

alto sax : US Selmer/ mark 6/ gold
mouthpiece : jake model & my hand model
reed : バンドレン 2.1/2

tenor sax : US Selmer/ mark 7/ gold
mouthpiece : Dave Guardala studio model

baritone sax: France Selmer/ mark 6/
mouthpiece : Meyer 7 old

clarinet : France Selmer 10s
mouthpiece : Selmer HS**

bass clarinet: Farnce Selmer
mouthpiece : Selmer 120/85

flute:村松&頭部管パウエル

影響を受けたplayer
 
すべてのsax player

ホームページ
http://www.linkclub.or.jp/~makoto


 今回は、平原まことさんです。大先輩なのに、一切壁を作らない、気さくな人柄で、同じ関西ということもあり、またまた、雑談になりました。途中脱線すること数回。長すぎて、どこを割愛するか悩みに悩んだ「あ・誰?」でした。当日私が、大遅刻をしたにもかかわらず、本当に快くお話しをして下さって、ここでもう一度お詫びとお礼を申し上げます。ありがとうございました。


平原まことさん(以降:ま):大阪弁で行きましょか?俺、コテコテですねん。

キャノンボール・あ・誰?(以降:誰):あ、はい(笑)。

ま:あ、知ってる?

誰:はい、あの〜、HP読ませて頂いたら、長崎生まれだけれども・・・

ま:いや、大阪生まれの、長崎育ちで。

誰:あ、そうでしたっけ?逆でしたか。

  (注文したものができ上がり、しばらく中断)

誰:私が18歳の時、だまされてフュージョンバンドに入ったんですね。

ま:ふははははは・・・(マイクに接近して)だまされたってさ。

誰:フュージョンとかはあんまり好きじゃなかったんです。でも、それ(バンド)に誘われて入ったら、内桶さんがそのバンドにいたんです。サックス奏者として、ちゃんとやってて、出来てる人って、彼が初めてだったんです、接するのが。で、しばらくやってまして。解散後(正確には自然消滅後)長い間、お互い何となくは知ってたんです。で、インターネットで、検索して遊んでたら「内桶好之サックスのページ」ってのを見つけて、それで覗いたらやっぱり内桶さんやったんですね。で、そこで私一人がサックス奏者でも何でもないのが、チャチャ入れててね。面白くなってきて、元々サックスが好きで、友達にも周りにすごいサックス吹きが多くて、これは何かインタビューとかをして、プロの意見を聞くとアマチュアの人の役に立つんじゃないかな?と思って始めたんですよね。

ま:ほう?(驚)あれ、内桶さんじゃなくて?

誰:ハイ!インタビューコーナーの「キャノンボール・あ・誰?」っていうのは私なんです。

ま:ははははは(笑)・・・あぁ、そう?!(驚)

(平原さんの詳しいプロフィールや活動を書いた書類一式を頂いて)

ま:「あ・誰?」さん(との活動)も載ってるで。

誰:はい、載せて頂いて嬉しいです。

ま:節操なく書いてるからなぁ。俺ほんと節操ないと思うわ。

誰:いえ、素晴しいと思います!音楽は、ある種の民族音楽じゃない限りドレミファソラシドですからね、ジャンルの間にどういう違いがあるんかって聞かれて、明確に答えられる人なんて、誰もいないじゃないですか?

ま:俺も、同じ様な考え方しててね、気持ちいいか悪いか、胸に来るか来んか、とかね。

誰:一番最初クラリネットを手にされたということですが、出会いとか、 吹くきっかけになったのは?

ま:親父がトランペット吹きなんで、俺も吹きたいなと。でも、歯が出っぱってんのよ、だから、これは無理だと。その次、何がやりたいかっていうと、松本英彦さんの音をいっぺんテレビで聴いて、かっこい〜な〜って。

誰:すごいですよねぇ。

ま:で、サックスやりたいなら、クラリネットから始めろって親父に言われて、中学でクラリネット吹いてたのかな。で、高校でもブラスバンドやりたくなって、奈良に天理っていうのがあって。

誰:有名ですよね。

ま:でもあそこは信者じゃないと入れないから。親を信者にさして。

誰:(驚)はっはっはっは!すごいっすね。

ま:天理で棒ふってる先生が、すごい因縁で、うちの親父がキャバレーでバンマスやってた時に、サイドで時々アルバイトで来てたトラで。その人がそこの由緒正しき先生で、三年間だけ、にわか信者で行きました。

誰:私も音楽二世ですけど、親父は大反対でした。デビュー決まってるのに、まだ反対してたから。私はお父さんに「無茶で実力もないのに、ただ憧れだけでやりたいわけじゃない」ってことを何とか示そうと思って、子供の頭で考えつく限りのコンテストを受けて、賞をもらって全部見せてました。何故反対したのか?結局はわからないままなんです。今はまぁ応援してくれてますけどね、ごく普通に。小さい時から音楽に囲まれて育ったという点では、結果的に良かったですけど、でも決してお父さんが普通に認めてくれたわけじゃなかったので。そういう人、羨ましいです。

ま:親父さんの気持ちもよくわかるけどね。一人娘?

誰:そうです。でもお母さんも芸人やったし、歌は世の中で一番私に向いてることなんですよ。あがったことないし、最初から。でも、それを必死で止めて、勉強させたかったんですよ。自分のもう一つの夢だったんで。「私に、一番向いてないこと(勉強)をさせようとしたね、お父さ〜ん」なんていうと「へへへ」とか言うてますけどね。

誰:天理でもクラリネットですか?

ま:うん、クラリネット。でも音大には行かへんかった。近畿大学で、軽音楽部に入って、そこで初めてサックス吹いて。こんなにでかい音がするものか?と思ったよ。ふんづまってるからねクラリネットってね。ぶわ〜んって吹いても。タカが知れてるからね。人生変ったなぁ。十倍ぐらい大きいね。ちょっと大げさかな。

誰:クラリネットって、でもいい音ですよ。あのぉ、山本拓夫さんってバスクラ吹いてる人。あの楽器もすっごい不思議な音してますよね。

ま:エキゾチックな音してるよなぁ。独特の。

誰:岸田今日子さんって女優さん、ムーミンの声優の。低い声なのにハイが強くて、人間なのに声が割れてて、そんな感じがするなぁ、バスクラって。

ま:ははははは(笑)

誰:裏声と地声が一緒に出てる様な音。(ちょっと「あ・誰?」がやってみる)

ま:ははは・・・(受けてる)

誰:こないだ土岐(土岐英史さん)さんが「俺、コントラバスサックス吹いたことあってさ。でかいから、まるで丸太に蝉がくっついたみたいなになっちゃうの。マウスピース(以後MP)こ〜んなでっかくて、吹くよりまず笑わない様にするのが修行だ」って言ってましたよ。

ま:(自分の手をくわえて)こうやろ?多分、手、くわえてるようなもんやな?

誰:(笑)あっははは・・・で、サックスを吹き始めて、その時ってテナーですか?

ま:いや、アルト。

誰:軽音楽部だから、やる曲も(天理時代とは)違うし。

ま:俺ね、大学の時、3年間で全部単位取ってしまったんよ。それで、4年の時はクラブハウスとキャバレー。お決まりのコース。

誰:そのぐらい、すぐ仕事できるぐらいのすごいレベルだったんですね。

ま:いや、とりあえず音は鳴ったな。

誰:お父さんのアドバイスは良かったんですね。クラリネットから始めなさいっていう。

ま:うん、それは良かったね。でも、いっぺんも教えてくれたことないねん。

誰:うちもそうですよ。そうじゃない親子もいてはりますけどね?

ま:そうそう、英才教育でなぁ。まぁ、あれもしかり、これもしかり、なのよね。

誰:話しもどって、キャバレーでやり始めて。

ま:大学卒業の時に、将来どうしようってことになって、お袋が占師に聞いたわけや。

誰:(笑・驚)すごいっすね。随所に、信者になったり、占いしたり。

ま:「そんなの東京行くのが当り前でしょ?」って、で、ゲイスターズっていう、おカマのバンドとちゃうよ。

誰:有名じゃないですか?

ま:あそこに8年ぐらいいて。その後に、僕の音を聴いてくれた五十嵐明要(いがらしあきとし)さんという、渡辺貞夫さんに影響を与えたという素ん晴らしいアルト吹き、この人は絶品よ!いまだにすごいんじゃないかな?ジョニー・ホッジスみたいなね。

誰:色っぽ〜い感じですね。

ま:めっちょめちょ〜な感じでね。僕はその人が好きでね。その人が呼んでくれて、ジョイフルオーケストラっていう、スィートミュージック、一番新しいのでもグレン・ミラーまで。1930年代ぐらいの音楽をずっと勉強したのね。それもまた7〜8年いたのかな。そうしてるうちにスタジオへちょこちょこ連れて行ってくれるようになって、そのうちに「じゃぁ一本でやってみる?」ってことになって、今に至るのかな。

誰:じゃぁ長いキャリアの中でも、大っきめの編成のバンドにいたことが多いんですか?

ま:多いね。コンポはね、バードランドなんかで。えっと清水潤さんって、知らんやろな。今、65〜6で。あと原田イサムさん、稲葉国光さんとか。恐い人や。稲葉さんに「峰厚介知ってるか?」って聞かれて。「お前、峰厚介以来やな」言われて、何のこっちゃわからんやん。多分、音色とかのことやと思うねんけど。「スピードのある音ってあんまおれへんから、お前このままジャズやれ」って。俺は「嫌です!!」って。

誰:あはは(笑)

ま:「やれ!」「嫌です!」みたいな。峰さんはすごいよね。別にコマーシャルするわけじゃなく、淡々と吹いて「かっこいいな」って。そんな熱心に聴いたことないけど、その当時、ジャズ嫌いやったから。

誰:ジャズが?

ま:ある日、突然嫌いになったね。

誰:ヴォーカルもそうですけど、ある日、突然「ジャズはやめだ!」ってあるみたい。こないだインタビューさせてもらった小池さんも、スタン・ゲッツすごい好きで、って、でも突然「ジャズはやめだ!」って。

ま:修?修は天才よ、あいつは。俺が見た中では、やっぱりテナーは小池修。

誰:一緒にバンドやってらっしゃいましたよね、東京・・アンサンブル・・

ま:ラボ!とにかくすごかったよ。あのね、まだ二十代の後半かなぁ?「すごいな〜こいつ」って。とにかく中から出て来てる。コピーとか、なになに風とかを越えてるもんがあってね。いやぁ、すごい!

誰:サックスに向かう時の精神状態が他のプレーヤーとは違いますよね。一種の覚悟を感じるんですよ。絶対すごく吹いてやる、みたいなことを自然に思ってる。だから、吹いてない時もプレーヤーなんですよね。

ま:そうやね。・・・きついけどな。多分、修、きついと思うな。

誰:随分丸くっていうか、自分の考えを、他のプレーヤーにも当てはめて考えてた若い時代っていうのは確かにあったけど、だけどあの人はあの人の過程で来てて最終目的まで行ってるところやし、僕は僕の過程で、って考えられるようになって、ライブが随分楽しくなったって言うてました。

ま:なるほどな、あいつはそういうとこあるよな。俺ね、あいつの生きざま見ててね。あいつスタジオ多かったのよ。ある日突然スタジオやらなくなったのよね。数原さん(数原晋さん)のセクションで僕いて、いつも「小池、小池」って、下手すると演歌まで連れて行ってたのよ。でも、無難に吹くのよね、あいつ。バリバリの音しながら、二人でソプラノ2本で「タ〜ラッタッタッタッタララ、タッタ〜タ〜」(演歌風のイントロのフレーズ)って。あいつ、気持ち悪いぐらいつけるのよ。しっかりと。リードコントロールもうまいし、基礎があるから。あいつの演歌は聴いたことないでしょ?

誰:言うてましたよ。「新沼謙次のバンマスやってたんだよ俺」って。

ま:あいつ、ほんとに演歌でテナー吹かしたら、吹くよ。

誰:歌モノがすごい好きって言うてました。ヴォーカルの後ろで「僕のソロとかオブリ入れたりして、ヴォーカルの人がつい涙する様なプレイをするのが夢なんだ」って。

ま:すごいよなぁ、あいつは。彼の生き方を考えながら、俺もじゃぁどうしようかな?って考えたところもあって、そいでそのCDになってん。(平原さんの「月の癒し」というCDを頂きました。素敵なアルバムで、時々お茶なんか飲みながらふわ〜〜っと聴いています。みなさんも是非聴いてみて下さい)だからね、一番自分でやりたかったことって何かな?って思ったら。俺ってだいたい、とんがったバリバリの音でブリブリ吹いて、ギャーギャーやって、なんかテキサスサックスみたいにブローして、というイメージが非常に強かったんやけどね。・・うん、まぁ聴いてみて。

誰:はい。

ま:すっげぇクラシカル。もうボロカス言われたよ。「これはお前と違うやろ」とか。

誰:いや、みんなそういうこと言うんですよ。色んな面持ってるじゃないですか?人間て。例えばクラシックも好きやし、ジャズも、ソウルも、ポップスも好きやし、だけど、とりあえず一番最初に、何かの縁で一面だけにライトが当てられる場合があるじゃないですか?私なんかまさにそうなんですよ。ずうっとジャズやってて、ソウルやってて、でもテクノポップでデビューしたから、それがまた11年やって、ある程度売れてしまったから、それ以外のことをやると「どうしたの?」とか「君じゃない」とか「どれが本当のあなたなの?」て言う人はすごく多いんですよ。
まぁ言う人は自由だし、言われてもしょうがないと思うんです、一面が先に光を当てられてしまったら。でも「人やモノには色んな面があるよ」ってみんな言うことなのに、何故か実際の音として具現化されたものを聴くと、そういうこと言うんですよ。「引き出しが多いね」とかね。そうじゃなくて、私の場合は、でっかい引き出しに闇鍋の様に色んなものが入っててね、手をつっこんで、掴んだものがジャズやった人は「『あ・誰?』はジャズの人や」とか、ポップス掴んだ人は「ポップスシンガーや」とか思ったりするけど、でも。料理人だって、野菜しか使わない人とか、肉しか使わない人は少ないし。みんな混ぜて作るじゃないですか?

ま:ほんまに、なぁ。(しみじみと)

ま:今回ね、聴いておかしいぐらい何にもしてないの。おまけに下手すりゃ、ビブラートもかけてないの。

誰:ビブラートかけてないってすごいじゃないですか?

ま:あの、何曲目かに、ノービブラートでね、けっこうまっすぐ吹いてるのがあって、それで歌い切ろう。よく言うやん?ビブラートかけずに、歌の文句をストレートに歌い切れるか?って。昔そういうことよく聞いたことあってね、それはよくヴォーカルの人にそう言ってることが多かったけど、それが最近わかってきたような気がするね。俺が思うのは、この曲に関しては、民謡の子供とかがわーーとまっすぐに歌ってる場合があるじゃない?すごいドキドキするんよね。で、クラシックの吹き方っていうのは、のべつまくなしにビブラートがかかる。サックスなんか特にいきなり、びよよよ〜〜んって来るやんか?何かいな?って。邪魔やなって思い出したことがあってね。ビブラートって一体何なんだろう?って思って。自分の表現力の一つで、音を豊かに聞こえさせるためかな?って。かかってる方が安堵感があるよね。かかってない方が緊張感あるよね。そういう風に解釈してて、緊張感を保ちながら、うまくいくと透明感に変ってくる様な気がしてね。やってみたいなと思ったの。もちろんかかってるけどね、かかってないのもあるからね。まぁ、いっぺん、聴いてみて。

誰:アマチュアの人達にとって、例えばロングトーンの練習とかが、ただ無駄じゃないってことがわかるんじゃないですかね?それを聴けば。ロングトーンって面白くもない練習だって言うじゃないですか?ノービブラートでまーっすぐ。近藤さんは「あほみたいな練習や」って言うてましたよ。

ま:うん、人には聴かせられない練習するよね。もう今はしなくなったけど。でも本当はした方がええんやろうな。俺はもう、ほとんどノートレーニングなのね。

誰:サックス奏者はこんなふうにあって欲しい、という条件とは。

ま:(しばらく考えておられて)サックス奏者がそうだと言うよりか、人間としてね、HPにも書いてるけど、素直になれる人っていうか、人の痛みがわかるとかね、人間として僕等が昔どっか忘れてきたような、仕事の為とか、しがらみとか言いながら、心の底に置いてきてしまったものを、もう一回ひっぱり出して自分はこれでいいんだろうか?と思った時に出てくる音楽を、素直に表現して欲しいな。非常に抽象的やけど。

誰:いや、わかりますよ。ハービー・ハンコックさんがおっしゃってたのはね。ピアノ弾いてる時はピアニストやし、子供と遊んでるいはお父さんやし、嫁さんに対しては夫やし一番の友達やし、色んな自分がいるけど、一つだけ言えるのはいつの時でも俺は人間やと。だから、いい音楽をしよう、いいお父さんになろうとする時に、一番大事なのはいい人間であろうとすることだと。本当にそうだと思うんです。でもその、今、抽象的っておっしゃいましたけど、じゃぁ、サックスを選んだ人は、その為にも、どういう風なサックス吹きを目指せばいいんだろう?

ま:また話し飛ぶけど、色んなタイプのサックス吹きがいて、僕は音大の子にはよく言うんだけど、ジャッキー・マクリーンの「レフトアローン」を聴きなさいって。あれは、音程、音色、フレーズ、シャバダバ、もうめっちゃくちゃ。それでも聴いてると涙が出てくる。それは何だろう?やってて、どうやって人に感銘を与えるんだろうな?って素直な気持になって、自分の中に出てくればね、人を感銘させる様なものが出てくると思うねん。まぁ、よくわかんないよ。小手先とかでもなくて、1小節の間に4拍、音吹いても、1つの音吹いても、感銘を与えられると思うねんね。ヴォーカルもそうだろうけど、そういう風なサックス吹きになって欲しい。だから、それは個人個人価値観が違うから、どういう風に持っていってもいいし。別にパラパラ吹くことが悪いわけでもなく、まっすぐ1個の音が駄目っていうわけでもないし。なんか、だから修が言ってたのは、当たりだと思うね。聴いてる人がいて、ヴォーカリストもそうだし、その後ろからすごい〜って。1つの音なんだけどねって。こうすごい胸に来る、そういうプレーヤーが出てきて欲しいと思うし。だから、自分に正直であるってことは難しいことだよね。

誰:勇気がいるんじゃないですかね。特に男の人なんてのは、ステージ上で真っ裸になって、自分全開でやるってことは恥ずかしいんじゃないですかね?それが一番必要で、出来やすいけど下手すると一番出来てないのが、ヴォーカルと思うんです。歌は物質を使わないじゃいですか?一番見抜かれるし、だけど、本当のこと言うと、真っ裸で自分の魂全快ってところで勝負するべきパートなんです。一番前にいるしね。「私はいいんです」って後ろにいるリードヴォーカリストなんて不細工やし。

ま:ふふふ

誰:それは音楽的におかしいし、聴いてる人が楽しくない。たまにそういう演出はあってもね。じゃぁ、勢いにまかせて「俺はこんなんだ!」って脱いだはいいけど、人間的に贅肉だらけとか、脂肪だらけとか。「だから服で隠してたのね、あなた?」みたいなことを、一番見抜かれるパートなんですよね。

ま:一番恐いなぁ。

誰:だけど、本当はそれを一番しなきゃいけないパートでもあるんです

ま:すっぽんぽんになるまでに、いかに自分の意識を高めておくかが大事やね。その為に、自分がどういうものをやりたいのかをしっかり持って、それに向かって服を脱いでいけば。

誰:イメージですよね。ビジョン。

ま:そう、イメージ。ビジョンね。うん。それがあると、人に笑われようと大丈夫やね。それが警戒心なしに勢いで脱いでしまって、あとでそのテープを見て「なんて恥ずかしいんやろ」と思う。「自分の嫌なところは最大の個性である」って言った人がいてね。「あぁ、嫌やなぁ、またこれが癖で出たな」と思ってるけど、それをもう2ひねり、3ひねりすると、自分しか出せない個性になるのよね。

誰:そうですね。嫌やな〜って思うってことは、無意識にも出てしまってることだから、それはその人の個性ですよね。

ま:そこを、何百回も聴いて、じゃぁ意識して今度は歌う。自分の個性に気付くっていうかね。そうすると嫌な部分が急に個性に変るよね。

誰:私もね、自分の声がすごい嫌いだったけど、ある日「でもこの声しかないんだな」と、私は急にデュコフからデイブ・ガーデラには変えられない訳ですから。

ま:はは、よう知ってるな。

誰:自分の声は変えられないと。年齢と共に変っていくのは仕方がないけど。この声でずっと行くのかと思った瞬間ふっきれて、じゃぁこの声を、何とかして好きになればいいんや、と思うとだんだん好きになりました。

ま:僕等も音色は変えられるけど、音質っていうかね、元々の持ってるものは変れへんのよね。そのMPを1年も吹いてりゃ、その人の音になるし。

誰:あ、そういうもんなんですか?MPって物質じゃないですか?変化と言えば気候で、湿気だの何だの以外に、その人の音にでき上がってくるんですか?

ま:その人の音になってくんねんね。

誰:それはどういうことなんでしょう?

ま:あのね、クラシックのMP吹いてようが、ジャズのバリバリの吹いてようが、結局はマイクで録ったりして聴いてると、まぁヴォリュームは違うと思うよ、大きい小さいはあるけど。でも、鳴ってる音は「あ、これは小池修の音や」何吹いてもあいつは変らんなと、いい意味でね。「あぁ、これは近藤カズの音やな」ってそういう風になって来るんよね。貞夫さんが今までいっぱいMP変えても、やっぱり貞夫さんでしょ?松本英彦さんもそうだし。峰さんもそうだし。

誰:はぁ、そういうもんなのか。・・・こないだ、道で売ってたバンブーサックスを吹きました。

ま:ははは・・・あ、え?それはどんなん?

 (バンブーサックスの説明がたらたら続く)

誰:すごくいい音でしたよ。

ま:俺のも聞かさないかんな。いものサックス。

誰:え?

ま:自分で掘ったんや。さつまいもで。

誰:ははははははは(笑)

ま:依頼があって。京都の城陽市ってとこがさつまいもの産地なのよ。葉加瀬(葉加瀬太郎さん)と羽健(羽田健太郎さん)のアットホームコンサートっていうのに、いものサックス吹いて出て来てくれへんか?って。「今からいも送るから」って。こ〜んな箱に何十本来たよ。

誰:(笑)作ったんですか?

ま:毎日、中心に穴が空いたさつまいものおかずや。

誰:(笑)なんでそんな発想になったんですか?

ま:いや、だから、これ楽器に出来るやつはおらんか?と。こんなんは平原しかおらんと。俺はなんで俺んとこ来るんやと思った?・・・でも、そうなんや。

誰:(笑)吹いたんですか?作って。

ま:信じられん音してたよ。絶賛だったんだよ。今度聴かしたるわ。

誰:(笑いが止まらない)・・是非・・聴かしてください。

ま:「家路」やったんや、「た〜らら〜、た〜らら〜、た〜らら〜らら〜」

誰:よく、そんなん作れましたね。ポテトサックス。

ま:なぁ。仕事やからなぁ。スィートホーン、って誰か言うてたわ。

誰:なるほどね。

ま:話しがつきませんね。

誰:つきないんです。話し始めると、みなさん、真面目に音楽やってらっしゃる方ばっかりなんで。

←これが噂のスィートホーン!!

誰:何かHPを見ている人達にメッセージを。

ま:サックスやって、俺の一生の間でサックスやってこれて、すごい幸せやったと思う。ごたく並べる奴はいっぱいおるけど。俺はすごい幸せやった。それが何のメッセージにもならんかな?

誰:いやいや、すばらしいメッセージだと思いますよ。

ま:だから、そうする為に何をしろということじゃないんやけど。他の仕事してたらたぶんプッツンしてたと思うな。楽しいもん、これやってて。でも、やっと最近かな?上からごちゃごちゃがない年になったじゃない?みんなが大事にしてくれる年になってきて、恩返しにみんなを大事にしようと思ってるけどね。だからカズ(近藤和彦さん)とかつづらの(つづらのあつしさん)とか、すっごいみんな良くしてくれるから、俺もよくする。俺は師弟関係というより仲間という感じが強いねんけど、結構みんなが意識すんのよね。「カズ」っていうと「はい!」って。彼とは長いからね、学生時代からやから。

誰:つづらのさんは大阪ですもんね。

ま:あいつとしゃべるとコテコテになんねん。「つづらの!大阪弁しゃべるなや、お前。『何さらしてけつかんねん?』みたいになるやないか?」って。「ここは東京やぞ」って。

(後は、単なるおしゃべり、ぴーちくぱーちく・・・fading and echo、聞きたい人は「あ・誰?」まで)


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