第5回 宮 哲之さん(Sax)


 第五回目は、ディジー・ガレスピーのツアーに参加されたり、日野皓正さんとの共演など、関西を代表するテナーサックス奏者の宮 哲之さんに、私、内桶が初インタビューを行いました。宮さんとは20年来のお付き合いですが、改まってお話を伺うとなるとお互いに妙に照れくさかったです。この日ザ・シンフォニーホールで関西フィルハーモニーのクリスマスコンサートに共に出演、楽屋でのインタビューとなりました。


宮さん1

使用楽器

Ts: アメリカンセルマー/ス-パー(バランス)アクション(#50358)
mouthpiece: オットーリンクメタル7*(オールド)
reed: ラ・ボーズ M

Ss:フランスセルマー/マーク6(#150717)
mouthpiece: セルマーメタルE
reed: ラ・ボーズ M

Flute:村松

影響を受けたplayer:

Sonny Rollins, John Coltrane, Charlie Parker, Stan Getz, Dave Liebman,
Steve Grossman, Lester Young, Cliford Brown, Hank Jones, and all musicians...

お薦めアルバム:

Duke Elington/Paris Concert
Charlie Parker/With Strings
Billy Holliday/Lady In Satin

ライブ情報

毎月曜 大阪上六SUBに出演


内桶(以下内):まず、サックスをはじめたきっかけからお聞きしたいんですけど・・・

宮:う〜ん、高校のときにね、うちの高校(堺の泉陽高校、女優の沢口靖子さんもここの出身)にはジャズバンドというかビッグバンドがあったんよ。

内:へぇ〜、高校で?ブラスバンドじゃなくて?

宮:うん、でその演奏会を見に行ってね。そん時には別にやろうとは思ってなかったんたんやけど、その後、部室にたまたま遊びに行ったんよ。そしたらニッカンのテナーが1台余ってて、そのテナーがね、なんとも俺を呼ぶのよね(笑)。で「吹かへんか?」と誘われたのがきっかけですわ。

内:「吹かへんか?」って誰にそう言われたんですか?

宮:いや〜、同級生でね、なんと今あの瀬川瑛子さんの旦那さんですわ。

内:えっ、清水さん?(脚注・・・清水氏は関西でも有名なドラマーで、私も良く一緒にお仕事をしていました。上京後は瀬川さんの専属バンドで仕事されていました。)

宮:うん、あれがドラム叩いててん。

内:で、清水さんに誘われてサックスをはじめたと・・・、面白いですね。

宮:清水がね、当時女子部員ばっかりだったんでね、男が欲しかったらしいのね。で、「お前も吹け」ってね。で、高校時代はずっとそのニッカンのオクターブキーの上がらないテナーを吹いてたんや。

内、宮:(爆笑)

内:ハゲハゲのヤツ?

宮:そうそう。

内:(笑いながら)それで、(立命館)大学へ行くわけですよね。

宮:うん、それでね、大学入る時にね、兄貴と賭けをしたわけよ。

内:へっ?

宮:大学を現役で通ったら、サックスを買うたると。

内:お兄さんが?

宮:いや〜、俺、勉強なんか全然してなかったからね。兄貴が「お前なんか大学なんか受かるはず無い」ってね。そしたら、たまたま受かってもうた。

内:(笑)楽器欲しさに?

宮:そうそう(笑)。で、兄貴がしゃあないからって、9万円で中古のヤマハのシルバーのテナーを買ってくれたんよ。それが、本格的にサックスを勉強するきっかけになったわけやね。

内:ふ〜ん、で、大学時代の宮さんを知る人によると、いっつもクラブの部室の前の廊下で一人で壁に向かって練習してはったそうですね。

宮:いや、実はそれには裏があってやね。大学は京都だったから下宿してたわけよね。で、金も無かったから、サックス吹くしかやることがなかったんや。それとね、実は高校のときからギターやっててね。

内:えっ、ロックギター?

宮:ロックっていうか、ブルースバンド。88ロックにでてた「花伸ブルースバンド」の前身のバンドで弾いてた。それが、大学に入った頃下宿でリンゴかなんかを剥いてたときに、包丁で左手の人差指の先を割と深く切ってもうて、一時的にギター弾けなくなったんで、これはもうサックスやるしかないと。

内:じゃあ、もし指切ってなかったら・・・

宮:今でも、ブルースギター弾いてたかもしれん(笑)。

内:ほ〜っ、で、その頃からライブとか出てたんですか?

宮:いや、ぜんぜんやってなかった。大学の2年の時くらいから、阪急服部にあったちっちゃなキャバレーみたいな所で、バイトがてらに吹いてた。それが最初の仕事。


内:じゃあ、次の質問行きましょうか。宮さんは昔「羅麗若」で古川初穂さん達とやってた頃(81年12月にデビューアルバムがベターデイズレコードより発売)って、割とユダヤ系というか、いわゆるアウトサイドを攻めるフレーズを多く使われていたのに・・・

宮:いかさまフレーズというやつね!(一同大爆笑)(脚注・・・実はこのインタビュー時には当日セクションを組んでいたサックス奏者が全員楽屋にいて聞き耳を立てていた)

内:最近というか今はコードのインサイドからフレーズを組みたててらっしゃいますよね?こういったスタイルの変化はどういった心境から変化されていったんでしょう?

宮:う〜ん、非常に難しい問題やねんけど、そもそも俺が最初にジャズを聞いたのが中学2年の時、兄貴が買ってきたレッド・ガーランドの「ガーランド・オブ・レッド」というアルバムを聞いてジャズが好きになって、それからコルトレーンの「マイ・フェイバリット・シングス」や、ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」なんかを聞いてますますジャズが好きになって、高校でサックス吹き出した頃は友達でクリフォード・ブラウンが好きな奴がおって、そんなのを良く聞いてた。
で、大学入った頃って、まあ当時の流行ってあるやん。

内:ちょうど、僕らの頃ってフュージョン全盛期でしたもんね。

宮:そうそう、(19)75年位かな?ちょうどクルセイダーズとか流行ってて、ブレッカーとかも出始めの頃で、やっぱりそういう音楽を良くやってた。その後マイルスの「My Funny Valentine」とか「Four & More」とかも良く聞いてて、こんなの(モード物)がやりたいな、と思ってて、要するにスケール一発で出来るような音楽しか出来ひんかったんよ。コードチェンジなんて知らんかったから。いや、コードチェンジって物は知ってたけど、よう吹かんかったんよ。

内:ふ〜ん、そんなふうには聞えなかったですけどね〜。

宮:いや、それはほんまやったんよ。コードチェンジなんて勉強しだしたのは、もっと大分経ってからや。

内:じゃあ、「羅麗若」時代ってずっとそんな感じでプレイしてはったんですか?

宮:うん、コードチェンジなんか、なんも知らんとやってた。あの頃は(バンドで)よう練習してたからね。そやからこう(コードが)バッと鳴るやんか?そしたらや、それを聞いてやな・・・

内:コピーしたフレーズとか聞き覚えのフレーズをつなぎ合わせて?

宮:そうそう、あ、これかな、こうかな、これはイケルな、なんてね。

内:へ〜ぇ、じゃ、その頃にグロスマンなんかもよく聞いてたわけですか?

宮:そう、デイブ・リーブマンなんかもね。当時京都にビッグボーイっていうライブハウスがあってな、そこで聞いたリーブマンにいたく感銘を受けてやな、一時リーブマンの出るところは全部くっついて行ってたんや。名古屋とかね。

内:えっ、追っかけやってたんですか?

宮:うん、なにやってんのか、よう解らんかってんけどな(笑)。とにかくカッコ良かった。とにかくそういう流行があったんですよね。

内:うん、僕もそういう流れの中にいましたからね、ブレッカーのフレーズとか良くコピーしては使ったりしてましたね〜。

宮:って言うかね、コルトレーンをコピーしようと思ったんやけどね、やってる内容がね、難しすぎて解れへんかってん。でね、リーブマンとグロスマンがエルビンとやってるヤツね・・・

内:あぁ、ありますね。

宮:あれ聞いてたらね、良く解るんよ。

内:ほう!

宮:うん、やってる内容がね。もちろんコルトレーンもコピーしたんやけど、解らん所はリーブマンとグロスマンをコピーして補ったという感じやね。

内:ふ〜ん、そんな宮さんが、だんだん、いわゆる主流派というか、もうアウトフレーズとか吹いてないじゃないですか?

宮:そう!ええかげんな自分が嫌になった(笑)。っていうか、う〜ん、コード進行に魅せられてしまったんよね。例えば、チャーリー・パーカーも昔は良く解らんかってんけども、良く解るようになってきたんよ。なるほど、こういう事で、こんなフレーズを吹いてんのか、ってな具合にね。そしたらそのような方がはるかに私の興味を惹いたわけや。

内:あっ、コードの制約の中でどうチェンジしていくか?と言う事が・・・

宮:そうそう、コードの中で、いかにそのコードトーンだけで・・・

内:はぁ?

宮:良くやるか?、っちゅうことよ。

内:美しいフレーズを?

宮:うん、美しい節をね!そういうことに興味が出てきたわけよ。昔はね、いかにコードを無視するかってことをやってたからね(笑)。いや、本当に、コードチェンジの美しさっちゅうモンを知らんかったからね。

内:なるほどね〜。


内:じゃあ、次いきましょうか?サックス吹きに最低限「こうあって欲しい」ということは?

宮:そんなもん、個人の自由やからやな、人はどうでもええんちゃうの?。最低限ちゃんと音が出て、音程が取れれば、それで良いんじゃないですか。

内:なるほど。じゃあ、こんな楽器が欲しい?

宮:ない!楽器は取り合えず鳴ればいい。あんまりこんな楽器が、とかはないね。あっ、アルトサックスが欲しい!(笑)

内:じゃあ、メーカーさんにこんな楽器を作って欲しいとか、こんなマウスピースやリードがあればなぁ、とか?

宮:そんなんもないなぁ。

内:古いモンへのこだわりとかって、あるんですか?

宮:あんまり無かったけど、ただ単なる超ミーハー的なもんで、音とか、使い易さじゃなく、私の場合は見かけが大事なんよ。

内:じゃあバランス・アクションにこだわっているのは・・・

宮:そうそう、ただ単にコルトレーンが使ってたから、これが欲しかっただけ。(一同大爆笑)

内:じゃあ、このオールドのオットーリンクもコルトレーンと一緒のヤツや、っていうんで?

宮:うん、もう単なる憧れ。

内:見かけがこれが良いってことで(笑)?

宮:そうそう、音がどうのこうのってのは、俺には関係無い(爆笑)。

内:じゃ、こだわって選んだ、っていうんじゃなくてたまたまあった、ってことですか?

宮:そう、たまたまあったんよ。今使っているこれは山中良之さんが、俺が前使っていたオールド・セルマーのラバーが欲しいって言うんで、交換したんですよ。

内:へえ、なんかごっつー、お得な交換だったんじゃないですか?

宮:うん、でもむこうがええって言うんやから、ええんちゃう?

内:へ〜っ。こんなん、なかなか無いですよね。

宮:うん、無いと思うよ。どうかな?とも思ったんやけど、吹いたら割と良かったから。

内:やっぱり現行の物とは全然違いますか?

宮:ちゃうね!今のリンクも持ってるけど、今のリンクはなんかこう、息の通りがバーっと広がるような気がするね。これの方が音がまとまっているような気がするよ。

内:ふ〜ん、ところで今でも毎日やってる練習ってあります?

宮:ロングトーンです。それとアルペジオかな?

内:アルペジオって、普通のコードトーンの?

宮:うん、ごく普通の。

内:なんかテンション入れてとかじゃなくて?

宮:そういうのも時々するけど、そんなややっこしいもんじゃないよ。

内:オーバートーンとかは?

宮:あっ、します。必ずやるね。そればっかりやるわけじゃないけど。ひと通り。

内:コピーとかは

宮:最近はもうあまりやらないね。もう聞くだけ。聞くだけで大体分かるしね。

宮さん2


内:じゃあ、最後に、今サックスを勉強している人にひとこと!

宮:ピアノを練習しましょう。

内:お〜っ!やっぱりそのコードのサウンド感覚を身に付けるためですか?

宮:そうですね。ガレスピーやマイルスも言ってたよね。「もし楽器が上手くなりたかったら家にピアノを買いなさい」ってね。自分の練習している曲をピアノでね・・・

内:コード進行を押さえて?

宮:そう、そうしてコード進行とサウンド感を覚えていく。これはもう、音楽やる人は誰にでも必要。ピアノを弾きましょう。

内:う〜ん、やってないなぁ(笑)。

宮:そんな所ですかね。あとはクラシックの教本などもたまに練習するよ。

内:へーっ、そうですか?

宮:時々やけどね。

鈴木央紹(飛び入り・・・大阪の若手で今一押しのサックスプレイヤー):リードは削ったりしますか?

宮:昔はしょっちゅうやってたけど、今はやってない。

内:ノータッチ?

宮:うん、あるがまま。

一同:へ〜っ。

内:じゃあ、まあそんなことで、ありがとうございました。

宮:いえいえ、どうもありがとうございました。


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