MOTOさんの
きまぐれTokyoライブレポートVol.2

 もうすっかりおなじみのMOTOさんからライブレポート第2弾を送って頂きました。MOTOさんいつも貴重なレポートありがとうございます。皆様の投稿もお待ちしております。
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 サックス愛好家の皆さん、こんにちは。
 春ですねー。暖かくなり、屋外で練習しやすくなりました。公園で吹いているといつのまにかまわりがアベックだらけになったりして、春だなぁ。フンッ。

 さて今回はこの2人。若き才能と、伝説のテナーマンだ!まずは本田雅人。最近リリースされたソロアルバムでは圧倒的な演奏能力とあふれんばかりの才能がてんこもり状態でしたが、このライブは趣きがガラッとかわり、アコースティックギターとの競演です。(今回は、ちょっと長い。オマケもあり)


◯春のアコースティックナイト 4/5 新宿ピットイン
三好功郎(G)本田雅人(As.Ss.Fl)坂井紅介(B)ヤヒロ・トモヒロ(Per)

 新宿ピットインは、ほぼ満員。その八割は女性客。やっぱりT-スクエアからのファンが多いのかな。本田は髪の毛サラサラ、華奢でアイドルみたい。三好のMCによれば、本田は早くも次のアルバムをレコーディング中だそうだ。で、演奏はといえば、まず三好のナンバーから2曲。本田はフルート→ソプラノで順調な出だし。フルトーンで鳴るソプラノが美しい。3曲目のトゥーツ・シールマンスの曲でアルトに。アコギとのマッチングからかマウスピースはハードラバーでした。リガチャーは通常のもの。

実はここまでの演奏はどうもまとまりのない状態で、アコースティックナイトということでリラックスした演奏になるだろうと言う予想は外れ、メンバー間に妙な緊張感が。それは…ヤヒロ・トモヒロのテンションが高い。初めこそバーチャイムでチャリチャリ『メロウ』な感じを演出していたが、気が付くとバスドラ連打スネアスネアタムタムスネアタムタムクラッシュ!と叩きまくり。スティックが早すぎて見えないぞ。見えないスティックってオズマかあんたは。『くつろいだギターと爽やかサックスでボサノヴァなんかもやってくんないかな〜』という期待は『どーなるんだ?』方面に向かい、どうやらこのライブの目下の状況は『緊張とリラックスのせめぎあい』ということが判りました。

 3曲目の終わりでメンバー全員が一瞬方向を見失い、タイムが崩れる!と思った瞬間リーダーの三好がテーマを弾く。『ハウ・インセンシティブ』だ。えっ、この静かな曲にアルトサックスがどうからむの?とドキドキして聴いていると、三好のソロが次第に盛り上がり、ギター・ベース・ドラムの音量が一気にふくらんだ頂点でアルトが高いD音から飛び込んできた!この瞬間には鳥肌が立った。アウトなフレーズもでかかったのだが、その後はテーマに沿って軟着陸。1stセットはPMG風の『ユア・スマイル』で終わり、2ndセットへの期待が高まる中、休憩。

 2ndセットは『オール・マイ・フレンズ』でスタート。次の曲で三好はエレキギターを取り、浮遊感覚溢れるフレーズを空間に投げていく。ちょっとフリー、アバンギャルド的な展開になり、こういった本田のプレイはT-スクエアでは聴けない(なかった)だろうな。ライブのおいしいところだ。
 2ndセットはやはり全員が別人のようにまとまりが良くなっており、しっかりバンドの音になっている。坂井紅介の(痩せた外見からは想像もつかない)パワフルなベースソロに客席は湧く。初めはぎこちなかったソロの後の拍手も盛大だ。6曲を演奏して終わり。だが拍手は鳴りやまずアンコールへ。バート・バカラックの『雨に濡れても』だ。本田の短いソロがあって、三好がしっとりと決める。粋だねぇ。

 本田雅人の演奏は一言でいって『艶があって華がある』プレイ。『華がある』人はなかなかいない。欲をいえばもっと『音』にオリジナリティが欲しいな。でもこのライブでの本田のサックスはメインのセッティングではないし、吹こうと思えばいくらでも吹ける人なので、このライブの印象は実力の一端の片鱗を垣間見たというメチャ曖昧な表現にとどめておこう。


◯尾田悟(Ts)カルテット+ドリー・ベーカー(Vo) 4/14 原宿キーノート
尾田悟(Ts)袴塚淳(P)野中英士(B)岩瀬立飛(Ds)

 原宿キーノートは初めてだ(店内の様子はホームページでどうぞ)。8時に行くともう演奏は始まっていて外人のおばちゃんが気持ちよさそうに歌っている。かなりの年輩の方がテナーをさりげなく吹いていて、この人が『伝説のテナーマン』尾田悟だ。でも、目の前でプレイしているから『現役の伝説テナーマン』だな。客は常連が多く広い店なのに皆ステージ前に集まって、アットホームな良い雰囲気を作っている。

 楽器は多分セルマーバランスアクションで、ラッカーが落ちきって地金がツヤツヤと輝いている。すごい年代物だ。詳しくはないのだが日本では数少ない『レスター・ヤングスタイルのスウィングテナーの巨匠』とどこかの本で紹介されていた記憶が…。でも演奏を聴くとデクスター・ゴードン的な所もあるし、似たようなプレイヤーが思い浮かばない。『ん〜このプレイは?』と考えていたら、知ってか知らずか、2ndセットが始まると本人が語り出した。
 「来月オランダへ演奏に行くことになりました。結局日本人は僕だけになったけど、僕は外国で受けるんですよ。それはマネをしないから。外国でレスター風に吹けば、あいつは黒人のマネをしている、スタン・ゲッツ風に吹けば、あいつは白人のマネをしている、といわれる。ジャズは真似から始まるけど、それだけじゃダメなんだ。オレはオレだ。黄色いジャズを作ってやる、と思っている。先週山下洋輔君と演奏して、(そういう話しになって)彼が『じゃぁ尾田さんは尾田流ですね』といった。(海外で活躍している)山下君にそういわれて嬉しかった。」
 そう熱く語ってくれたのだが、なぜかその間ずっとステージから俺を見つめるのだな。話を聞きながら、もう100回ぐらいうなずいてしまった。演奏になっても俺の正面を向いたままで吹き続けるのだ。理由はわからないが目をつけられたらしい。光栄だし有り難いのだがかなり困った。

 レスターの曲が3曲メドレーで演奏され、その間俺はバランスアクションの真ん丸いベルを見つづけていたのだが、そこで尾田悟と似たようなプレイヤーを探した自分の浅はかさに気が付いた。尾田悟のテナーは誰にも似ていない。『ONE & ONLY』だ。それはなぜか。3rdセットの途中で彼はこう語っていた。「僕はかれこれ50年テナーを吹いていますが…」
 ジャズの歴史そのものの流れの中で、様々な影響を受けながら、50年かけてこのサウンドを造り上げたのだ。50年なんて想像もつかないな。うまく表現できなくて口惜しいのだが、テナーの音が『生き物』のようなのだ(別に物の怪じゃないよ)。脱帽。ついでに土下座。

 おっと、ドラムの彼を忘れていた。岩瀬立飛だ。尾田悟とはこの日が初顔合わせということで、そのプレイは…本田同様、コメントはまたの機会に。(みうらじゅんにちょっと似ていたな。うわぁ失礼しました!)


おまけ話

先日帰宅すると絵はがきが着いていて、オランダのアムステルダムから?差出人をみると『梅津和時』。「現在サックス6人での3週間のオランダ公演を終えた所です。ああ、疲れた。でも楽しいです」とある。どうやらこの間のライブでアンケートに回答した人に、旅先からハガキを出しているらしい。ああびっくりした。でもマメやー、なんてエエひとやーと、ますますファンになってしまったのでした。

『文中敬称略』


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