MOTOさんの
きまぐれTokyoライブレポートVol.4

 すっかり我がHPの専属ライターとなった感のあるMOTOさんからライブレポート第4弾を送って頂きました。MOTOさん、いつもありがとうございます。
この記事に関するご意見、ご感想はゲストブックへお願い致します。


  サックス愛好家の皆さん、メンテナンス、してますかー?
 『ジャズは現場で起きてるんだ!』をモットーに(いつから?)、大都会の地下室で夜な夜なハプニングしているジャズライブのごくごく一部を極私的見解でお伝えしております。お暇な方はご覧あれ。

 さて今回はユーゴスラビア出身のベテラントランペッター、ダスコ・ゴイコビッチ率いるユーゴ、イタリア、フランス、スロベニア、そして日本からなる多国籍クインテットです!さらに日本人の乱入もあり!ところでスロベニアってどこなんだ!


◯ダスコ・ゴイコビッチ インターナショナル ジャズクインテット 
5/28 新宿ピットイン
ダスコ・ゴイコビッチ(tp・flh)ジャンニ・バッソ(ts)ルイジ・トラサルディ(b)
ピーター・ミケリッチ(p)大坂昌彦(ds)

 ※文中敬称略

 カタカナばかりで長いので失礼してファーストネームで呼ばしてもらいます。
 ダスコは1931年ユーゴ生まれ。バークレーでは渡辺貞夫さんと同期だった。ジャズ喫茶から人気が出て96年に初来日。豊富なキャリアを持ち、通好みのミュージシャンといえるが、その真摯で奥行きのあるプレイに魅了されるファンが増えている。特に叙情的なバラッドに定評があるが、実はバップフレーズバリバリだったりする。
 ジャンニは1931年イタリア生まれ。昨年のダスコのライブリポートをあるHPで読んだら『ジャンニのテナーがいい!』と絶賛されていたので今日は期待大。ステージでおどけたりウインクするなど、見た目通りのイタリアのおっちゃんだ。
 ルイジは40年のキャリアがあるフランスの草分け的ベースプレイヤー。ステージ中央後方に直立し、孤高の詩人的風貌で微動だにせずひたすらウォーキングする。
 ミケリッチ(以下ミケ。にゃ〜ん)は1968年スロベニア生まれ。ニューヨークの若手注目ピアニスト。バッキングに徹するがソロで意地をみせるか?
 大坂昌彦はもういうまでもなく、台頭する日本の若手ドラマー達の兄貴・若頭的存在で、人気・実力ともに突出している。ファンクラブもあるから批判すると後がコワイぞ!(笑)

 メンバー紹介だけで大変だ。この夜の新宿ピットインは立ち見も出る超満員。幸い補助席の丸イスに座ることができた。メンバーが控え室から登場すると大きな拍手が。客席は熱いがリラックスした雰囲気で、皆ダスコの音楽をよく知っている感じだ。
大坂も堂々としていてジャンニと言葉を交わしながらドラムセットに座りニコニコしている。

ダスコのカウントで演奏が始まった。聴き慣れたテーマ。スタンダードの◯◯◯だ。…曲名わからん。実はスタンダードはスターダストしか知らないのだ(ウソだけど)。基本的にこのライブはスタンダード5曲+オリジナル2曲+ブルース2曲(アンコール含む)という構成だった。

ダスコのトランペットのスタイルについて語れるほどの知識がないのだが、トリッキーなフレーズは吹かないし、圧倒的なパワーで吹きまくるタイプでもない。しっかりしたクラシックの奏法を基本に、ジャズの語法を積み上げていった感じがする。ジャズといってもニューオーリンズの匂いはないが。オーソドックスと言えばそれまでだが、王道を行くような力強さがある。それにしても艶やかなトーンでフレーズがよく歌う。これが70才近い人の出す音だろうか?年齢的にはジャンニもルイジも同じだが、ちゃんじーだからといってジャズではあなどれないのだ。とにかく皆、存在感がある。ジャンニのテナーは下心いや歌心たっぷりのサブトーンが絶品。ルイジのベースは初めは音が小さく聞こえ、大丈夫かなぁ?と心配したのだが結果的には『うさぎとカメ』であった。ルイジがカメね。ステージの真ん中で飄々とベースを弾く姿は、バンド全体を導くノッポの灯台のようだ。

 2曲目でダスコはフリューゲルホーンに持ち替え、『イン ア メロウトーン』のテーマを吹く。おおきくてやわらかな音が響き渡り、皆聞き入る。
 3曲目はケニー・クラークに捧げたオリジナル。各曲間に英語でダスコの短いMCが入る。ジャンニがおれにも喋らせろと合図するがダスコが気づいてくれないので肩をすくめてみせる。ダスコの真面目そうな人柄(実はおちゃめ)と、ジャンニのユーモラスな仕種が好対象で、雰囲気が和んでいく。
 4曲目は『ミスティ』。ここでのミュートプレイは素晴らしかった。ミュートをつけた時の方がサウンドがシャープになり、オープンで吹くよりかえってよく響く。演奏もスリリングだ。

各曲でテーマ→ダスコソロ→ジャンニソロ→ミケソロ→ルイジ叉は大坂ソロ→アタマに戻って終わり、というパターンが繰り返される。フロントの二人がソロをとってステージ脇に下がるとピアノトリオとなり、俄然大坂がプッシュしてくる。それを受けるミケがいまいちかにゃー。ちょっとキレがないにゃー。ソロの終わりもはっきりしないにゃー。…大坂はソロになるとここぞとばかりに大技・小技を怒騰のごとく繰り出してくる。ソロ以外でも要所要所に決まる短い稲妻の様なロールや、音色を変化させるシンバルワークなど、いやはやすごいテクニックだ。でもこういうアクロバティックなプレイには好みが別れるだろうな。でも大坂はいろいろなスタイルでプレイするからな。個人的には細かいリムショットのパターンはどうも好かん。タイコは太か音でたたくもんたい!で、休憩に入る。

 『また戻って来れて嬉しい!今日のお客さんは素晴らしい。来月行くヨーロッパに連れて行きたい!』おそらくこんな内容のお世辞MCを軽く決めたあと、ダスコはフリューゲルで『ユービーソーナイストゥーカムホーム』を吹く。今度はアグレッシブだ。太い音でぐいぐいアドリブしていく。バッパーの素地が覗く。
 2曲目はジャンニのソロ。バラードだ。渋くていいサウンドだなぁ。フレーズがどうのこうのというより、曲全体で表現している感じ。『俺のテナーってちょっとエッチだろ?口説かれてみないか?フフフフフ』みたいに聞こえてしまう。こんなふうに吹けたら最高だなぁ。ちなみにMPはメタルのオットリンクでした。
 3曲目もスタンダード。聴いたことあるが曲名わからん。あぁ、スタンダード勉強しなくちゃ。(考えてみたら自分が行くライブで演奏されるスタンダードは、コルトレーンやモンク、オーネット、ドルフィあたり。偏ってるな。やっぱり温故知新だ)ダスコはここでもミュートをプレイ。音色は冴え渡る。

 ダスコがニコニコしながらマイクをとり『ハラ!トモナオハラ!』と叫ぶ。なんと日本の若手トランペッターの筆頭、原朋直の乱入だ!メンバーとも旧知の仲の原が、こちらもニコニコしながら、ベルのラッカーのはげた愛器を抱えてステージに登場。ダスコは自慢の息子を紹介するように嬉しそうだ。ブルースが始まる。フロント3人がソロをとった後大坂をいれて4バース合戦。大坂の超絶ソロに客席が沸き、ジャンニが負けじと激しくブローする。原はまだ楽器が暖まっていない不利にもかかわらず、果敢にハイノートに挑む。続くダスコが一発でハイノートをヒットさせ、原のけぞる。なんちゅーおやじだ!全員でテーマに戻って終わり。大拍手。大歓声。

 メンバーが控え室に入るが、当然拍手はやまない。ドアからダスコが顔をだすと、嵐の様な拍手と歓声が。アンコールに突入。またブルース。同じくソロやバースのやりとりがあり、ルイジのベースソロが満を侍して炸裂!いつのまにかベースの音もはっきりとしている。この人にとっては一晩のライブがまとめて1曲なのかも知れない。脱帽だ。調子の出てきた原が長く複雑なフレーズを決めると、かぶせるようにダスコが大音量で吹きまくる。地力の違いと言うか、ダイナミクスが大きくppでも実にクリアーでパワーが落ちない。原が負けているとは思わないが、すごいことだ。ラッパ同士のバトル
ほど熱くなるものはないな。ハイノート合戦になればどちらがより高い音を出せるかという、ほとんどムキになった子供のケンカだ(笑)。ここにきて原の会心の一撃がヒットし、客席は盛り上がる盛り上がる。しかしさすがダスコ、最後はしっかりと決める。テーマに戻りエンディング。ジャンニがわざとこぼれる『プップププ』。吹き足りなかったらしい(爆)。

 いやぁ、大満足のライブでした。ここんとこハードワークで疲れ切ってましたが、来てよかった。エナジーもらいました。来年も来てほしいものです。ダスコ、ジャンニ、ルイジの健康を祈って。

『ライブ最高!』


Prev jazzのホームへ つぎへ
前のページへ Jazzページのトップへ 次のページへ