MOTOさんの
きまぐれTokyoライブレポートVol.7

 MOTOさんからライブレポート第7弾を送って頂きました。MOTOさん、いつもありがとうございます。
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  『ジャズのライブは一期一会!人生は循環呼吸!』(意味不明)をモットーに、様々なジャズライブを出たとこ勝負の極私的見解でお伝えしております。続けての登場となりましたがご容赦のほど・・・。では、お暇な方はご覧あれ。
 さて今回はアメリカのアルトサックス・プレイヤー『ヴインセント・ハーリング』に日本の3人の若手アルト奏者が挑戦する、日米アルト決戦『アルト・サミット・ナイト』と、不思議なほのぼのフリーミュージック『野村誠・梅津和時デュオ』でございます!

 ※文中敬称略


◯ ヴインセント・ハーリング・クァルテット『アルト・サミット・ナイト』
 8/2門仲天井ホール(東京・江東区)

ヴインセント・ハーリング(as.ss) ケビン・ヘイズ(p)
ドゥエイン・バーノ(b) 小林陽一(dr) 
☆スペシャル・ゲスト 多田誠司(as) 山田穣(as) 太田剣(as)

 ヴインセント・ハーリング・クァルテットのジャパンツアー最終日は、日本の若手アルト奏者三人を迎えてのセッションだった。10日間休みなし・連日移動ありと、鬼のようなハードなツアーである。全員ボロボロになっているかと心配していたが、会場に現れたヴインセントは元気そうで安心した。タフだなぁ。それにしても体がデカイ。手も大きくて厚い。指太い。黒人としてはけっして大きい方ではないのだろうが。例えれば体型的にはラグビーのフォワードで、それも世界最強のオールブラックスだ。

 デビュー当時からキャンノンボール・アダレイの再来的な扱いで、実際ナット・アダレイのクインテットで長く活動していた。体格も似ているが、豪快な野太い音色もキャノンボールを彷佛させる。と、ここまでは過去のデータで、ここ数年間はヴインセント・ハーリングという存在はほとんど意識になかった(CD-ROMが出ているのを知っていた程度)。デビュー作はけっこう聴いていたので、当時のイメージしかない・・・。

 1st setはクァルテットの演奏。ヴインセントのアルトはヤナギサワの新しい楽器(ゴールドプレイト?)でキラキラと金色に輝いている。ここの会場は席数80名程の小さなホールなので、PAはほとんど必要無い。ヴィンセントはセンターマイクから離れて、カウントをとり、マウスピースを口にくわえ、吹き始める。生音だ。
 おおおっ?なんだこの音は!・・・楽器の『鳴り』が、全然違うぞ。いままで聴いて来たアルトとは、まるで違うサウンドだ。野太く、ボリュームがあってよく伸びる。密度の濃い分厚い音のヴァイブレーションが、会場の高い天井の隅々にまで充満している。その音色はスムースなだけではなく、激しさを秘めていることもすぐに判る。高音部でもアルト特有のカン高さがない。テナー的なサウンドとも違う。

 これは・・・ヴインセントの身体全体が共鳴しているようだ。サックスと身体がつながって、ひとつの楽器となって振動しているのだ。『サックスと身体の一体化』・・・言葉だけの表現と思っていたが、初めて実感できた。この音がそうなのだ。サックスがこんな鳴り方をするとは想像もできなかった。
 ボーゼンとしているうちにも演奏は続く。アップテンポな1曲目を快調に飛ばすと、2曲目は聞き覚えのあるダークなテーマ。マイケル・ブレッカーの『ミッドナイト・ボヤージ』だ。この選曲はちょっと意外。次はスローなテンポでモーダルな曲。ちょっとねじれたソロをとる。お〜、けっこうコンテンポラリーなスタイルになっていたのね。ソプラノで1曲吹いた後、カリプソ調の軽快な曲をきめて、休憩に入る。ソプラノはスタンドにささったままステージに置きっぱなしだ。演奏も1曲だけだったし、あまり必要性を感じていないようだ。ソプラノもいい音していたけどなぁ。
 ピアノのケビンのソロは、まぁほどほどといった感じ。ひとしきり弾いたあとで、あまり盛り上がらないまま『もういいよねー』とアルトに戻そうとするとヴインセントが『もう1コーラスやれ』と目線を送ったりする。ドゥエインもそうだが、さすがに疲れているのか?休憩が終わり、2nd setの今夜のメインエベント『日米アルト対決』が始まる。

 正確には『日米アルト頂上会談』なのだが、はっきりいって、好むと好まざるとにかかわらず、これはもう状況的に真剣勝負なのだ。プレイの善し悪しは、誰の目にもはっきりと判ってしまう。ヴインセントのMCで、日本人プレイヤーが呼ばれ一人ずつ演奏する。

 最初は太田剣。太田は初めて見るが、背が高くスマートでルックスが日本人離れしている(筆者は外人離れしている)。ついに日本ジャズ界にもビジュアル系が現れたか(笑)。演奏は最初こそ硬かったが外見とはうらはらの骨太なプレイで勢いがある。なかなかいいぞ。

 二番手は山田穣だが、どうも元気がない。みるからに体調悪そうだ。マウスピースがオットリンクのメタルに変わっているせいではないだろうが、鳴りがいまいちだ。プレイもリズム隊のビートからごくごくわずがだが遅れていて、聴きながらつんのめってしまいそうになる。う〜ん、今夜のヤマジョーは不調である。

 そして、いつものにこやかな笑顔に若干の緊張感をただよわせつつ多田誠司がステージに登場。多田が吹き始めると、ホールの空間にいままでにはないテンションがグワッと発生する。バンド全体がシフトアップして加速し始める。昨年聴いた時よりプレイにも音色にも凄味が増している。さすがに貫禄を感じる。ブロウする多田をステージ脇からヴインセントがじっと見つめている。

 いよいよフロントにアルトが4本並ぶ。ここから先は全員で『テーマ→ヴィンセントからアルト・ソロ回し→ベース・ピアノ・ドラムいずれかのソロ→ヴィンセント・他ソロ→アタマにもどってエンディング』を基本に数曲演奏される。というのもメモをとるなんてどーでもいい位の白熱した演奏が続いたのだ。太田剣はどんどん調子が出て来てパワフルに吹きまくる。大健闘だ。多田も超絶フレーズを惜しげもなく繰り出しヴインセントと堂々と渡り合っている。ヴインセントははっきりと多田を意識していてベルを多田に向けて吹いたりする。更に恐ろしいことに、このセッションの間に多田のフレーズを吸収していた。なんてやつだ。山田は絶不調。

 熱いアルトバトルに影響されてか、ベースのドゥエインが良いソロをとる。ピアノのケビンも気持ちの入った美しいソロでようやく大きな拍手を得た。ドラムの小林はアートブレイキー顔負けのパワフルでスケールの大きなドラミングだ。腕をクロスさせる奏法(?)が凄かった。バンドリーダーだが基本的に黒子に徹している。今夜は特にこの三人が、フロントのアルト奏者が変わる度に、それぞれのタイム感の違いを的確につかんで補正していく過程が見れて興味深かった。お互い目で合図したり、あるパターンを出したり、様々な信号が三人の間を飛び交っているのだ。
 ヴインセントと、日本人三人のアルトの『鳴り』に歴然たる違いあったことは、やはり書き記しておかなければならないだろう。日本人を卑下してるわけではないことはわかって欲しい。それでは体がデカければ鳴るのか?という単にフィジカルな問題ではないのは実際にサックスを吹かれる方は理解していただけると思う。
 ジャズではマイクも楽器の一部であるから『鳴り』より『音色』を求めるのはまったく正しいことである。ジョー・ヘンダーソンを聴けばわかる。彼はマイクをベルにつっこんで吹くそうだ。ただ実際にヴィンセントの生音を聴いてみて、サックスという楽器の『鳴り』というものに対して、無意識の内に『なんとなくここまで』というイメージのリミッターを自分自身にかけていたことに気がついたのだ。・・・とにかく!世界にはホントに凄いやつがいるものだ。CDでは絶対にわからない。

 さて、山田穣の名誉のために書き加えれば、アンコールの急速調の曲での山田の渾身のソロは鬼気迫るものがあった。不調なのを承知のうえでドゥエインはわざとテンポをより早くするという熱いミュージシャンシップを見せてくれた。(ヴインセントが近づいて『おいおい、いーのかー』と確認していた)。しかし山田は最後の力を振り絞るように吹き切った!まさに崖っぷちからの生還!(オーバーだなぁ)。ミュージシャンも観客も、見守る全員が心から拍手拍手。

 いやいや、ジャズライブはほんとにドラマだす。


◯ 野村誠 ・ 梅津和時デュオ  8/6  原宿・表参道 NADIFF (東京・港区)

野村誠(鍵盤ハーモニカ) 梅津和時(as.ss.cl.bcl.
ヘビ笛.笙.コップの水.洗濯バサミ.タオル.靴.声) 

NADIFFは現代美術・写真・演劇・音楽を中心としたアートブックショップです。白い壁のきれいな内装で、小さな素敵なカフェもあって、とってもおしゃれなんだ。そのなかの小さな展示スペースで、野村誠と梅津和時のデュオが3日間行われました。その初日のライブを見て来ました。10畳程の狭い部屋に約20人の観客が足を窮屈そうに折り曲げて座り込みます。すし詰めって感じかな。客は20才前後の女の子がほとんどで、これがみんな可愛いんだ。あれ、関係ないか。フリージャズ(ミュージック)ってこんな人気あったっけ?・・・チューニングかと思っていたらすでに演奏ははじまっていて、梅津さんがクラをペラペラ吹いている。すぐにソプラノに持ち変えてペレヒレハレと吹いたら、今度は雅楽で使うパンパイプみたいな楽器をプギョーっと吹き始めた。野村誠さんは鍵盤ハーモニカ、つまりピアニカでフレヒレホロロ?ホレヒタトテカ?とやっている。観客の女の子達はフレーズが出る度にクスクス笑っている
。感覚ですぐにこのパフォーマンスが音の会話であることがわかり、楽しんでいるんだね。たいへんよろしい(笑)。

梅津・ヘビ笛『ビヒョベ〜ッ・ビヨビ〜ン』
野村・ピアニカ『フステレフォ?フォフォフォレヒテタ?』
梅津・クラリネット『ホレ?テヘホフホ・ホフホヘフホ!』
野村・ピアニカ『ホホレツペペレツフレロリラ〜』
梅津・アルト『バヒュフォヒョンベベベベ』
野村・ピアニカ『フレヒフフォ〜』
梅津・バスクラ『ブリブリボーッキュピーヒヒヒヒ』
野村・ピアニカ『フレヒ〜』
梅津・洗濯バサミ『カチカチカチ』
野村・ピアニカ『フレホ〜』
梅津・コップの水『ゴボゴボゴボ』

こんな感じで約一時間、演奏は続きました。フレーズの引用は自由自在。聞き覚えのあるクラシックのメロディが、いつのまにかサザエさんの歌になっていたのにはみんな大笑い。とても楽しい時間を過ごしました。
 こういう音楽の楽しみ方が自然にできる若い人達がいることがわかって、とても嬉しいよ。できれば一緒にお茶でも飲みたかったけれど、おじさんこれからまだ仕事だから(爆)。じゃあね〜。

・・・たまにはこんなライブもいいもんです。


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