MOTOさんの
きまぐれTokyoライブレポートVol.8

 MOTOさんからライブレポート第8弾を送って頂きました。MOTOさん、いつもありがとうございます。今回はサックス関係のライブ三昧の日々を綴っておられます。良いですね。うらやまし〜い。この記事に関するご意見、ご感想はゲストブックへお願い致します。


  ジャズ業界に御奉仕する(つもりの)印象批評を続けております。さて9月は自主的に『サックス奏者てんこもり月間』ということで、今回はボリュームで勝負!ですな。量が多い分、味は薄口ですが(笑)。お暇な方はご覧あれ。
では、神田岩本町で週末しか開店しない企画主体のユニークなライブハウスTUCでの2つのライブと、NHKセッション505の公開録音ライブから、総勢12名のサックス奏者の登場です。まずはTUCでの四組のテナー&ピアノによるアコースティック・デュオ・ナイトから。飛び入りもあり。

 ※文中敬称略


☆ TUC篇

9月3日 テナー&ピアノデュオ・ナイト

田中邦和(ts)&森下 滋(p)  川嶋哲郎(ts)&石井 彰(p)
竹内 直(ts)&大澤香織(p)  音川英二(ts)&◯◯◯◯(p)

トップバッターは田中邦和のデュオ。田中のテナーはオールドのコーンで、なんとマウスピース(以下MP)はデュコフでウインスロー・リガチャーとの組み合わせ。演奏はユーモラスな跳躍やフレーズに機知があり、口語体のプレイといった感じで楽しかった。またMCもほのぼのしていた。ただセッティングの割に音量が小さかったのが気になる。息もれの音もあったし。

お詫び・・・この記述に関して田中邦和さんご本人から2000年4月20日、メールを頂戴いたしました。この時に使用されていたのはブレンダンティブスというオーストラリア製の純銀のモノだったそうで、「見た目で判断するとデュコフと見間違われても仕方のないものなのですが、実は違うんです。」ということでした。ちなみに現在はリンクのエボ+オールドコーンというセッティングだそうです。

二番手の川嶋哲郎は無言でいきなりソプラノを吹き始める。(ソプラノは新しいセルマーかな?)初めは空間に投げるようなフレーズが続き、ちょっとデイブ・リーブマンとリッチー・バイラークのデュオを連想した。テナーに持ち替えるとアグレッシブなアプローチ。激しくかつ的確に、といった感じ。石井彰と一体になった演奏で、二人とも音楽への没入度がすごい。

続いて竹内直が登場。久々に見たら、テナーサックスが黄土色の縄文式に変わっており、ネックだけはゴールドプレイトだ。いつもの循環呼吸ソロが始まるが、なかなか離陸しきれない感じ。ピアノがやや単調で、揚力を与えられないようだ。MPはオットリンク・メタルに通常のリガチャー。

ラストは音川英二。ピアニストが急遽変更になり、名前わからん。ちょっと調べておきます。このひとが山下洋輔ばりのドシャメシャピアノで、良かった(笑)。音川英二のMPはハードラバーでBGのリガチャー。初聴きだが、すごく良い。スピードもあるが、トルクが非常に強い。ちょっと形容しがたいフレーズがマッス(塊)となって飛び出してくる。一曲の中でもう少しダイナミクス・緩急が欲しいと思った。

TUC側の企画で、一組の演奏は4曲と決められている。ジャズスタンダード1曲・ビートルズ1曲残りはオリジナルのアレンジを施したジャズとポップス各1曲。竹内自身のアレンジでサイモンとガーファンクルの「明日にかける橋」が聴けたのは、珍しい。ただこの設定が、それぞれのデュオの音楽的指向性・特色を100%発揮させたか、という点は疑問だが。

最後にお約束の全員の演奏があるかと思ったが、翌日出演する予定のクリス・ポッター(ts)と宮本貴奈(p)が飛び入り。クリスのテナーはシルバーのバランスアクション(おそらく)でMPはオットリンク・ラバー。リガチャーはワイヤーで引き締める初めてみるタイプのもの。演奏はうまいのだがすごくインパクトがあるといったものではなく、期待していただけに(翌日のライブを予約していた)ちょっと拍子抜け。二曲目はクリスがピアノを弾き(上手)宮本がピアニカを・・・ってサックス吹けよ(笑)。CDで聴くタイプの演奏家なのかもなー。後日、最新作『vertigo』を聴き直したがやっぱり面白い。不思議だ。今度は自己のカルテットでの演奏が聴きたいな。


9月10日 サキソフォン・カルテット・ナイト

『クアドラ vs サキソフォビア』

クアドラ
岩佐真帆呂(ts)石田博(as)宮地傑(ts)武田和大(bs)

サキソフォビア
竹内直(ts.fl.bcl)緑川英徳(as)岡 淳(ts.afl.篠笛.vo)井上“JUJU”博之(bs.fl)

※両グループ共、ステージに向かって左からの立ち位置

竹内直以外は皆、初聴だ。ひとつのセットを2グループが30分ずつ交代で演奏・それを2セットという説明がある。

まずクアドラから。岩佐真帆呂のテナーはほどほどにラッカーの落ちた状態で音色も比較的明るい。石田博は真新しいサテン・フィニッシュのアルトでキラキラ輝いている。このタイプを使っている人は初めて見た。宮地傑は縄文式テナーで音もダークで渋い。武田和大のバリトンはたぶん現行モデルかな(未確認)。MPがガーデラだ。その武田がバリバリブリブリとメリハリのあるベースパターンをひとしきり吹いた後で全員が入ってくる。それぞれがソロを廻して盛り上がっていくというバンドではなく、アンサンブルをしっかりと聞かせる構成の様だ。もちろん各人のソロはそれぞれの持ち味を充分に発揮したものだったと言えよう。

パリ・ミュゼットの曲などをサックス・アンサンブルで聞かせるなど着想が面白い。ただ客席から聴いていると宮地のテナーだけ音が引っ込んでいるように聞こえた。これは『引っ込んでいる』のではなく、他の3本が新しい楽器なので、鳴りの違いから前方に出てくる音の音圧が揃わないのかもしれない。またサックス4本が全速で『走っている』時でも、どうもドライブ感がいまひとつかなー。何故だろう?蛇足だがMCが面白くない。『こんなにマイクのあるライブは初めて』だの言わないで欲しい。興醒めしてしまう。プロのステージなんだから。演奏が良いだけに、ちょっとがっかりした。

すると、いきなり背後からサックスの大音量が!びっくりして振り返るとサキソフォビアの4人がサックスを吹きながら客席後方から登場し、そのままステージへ。岡淳(まこと)は黒いスーツに黒シャツ・ダークグレーのタイで、サングラス。井上も同じような黒づくめの服装にさらに坊主頭だ。この二人、どう見てもヒットマンだ(爆)。竹内は紫(!)のダブルのスーツに花柄のホンコンネクタイ。短髪がビンビンに突っ立っている。どう見ても組の高級幹部だ(爆)。緑川は黒い半袖シャツにカーキのズボン。どう見ても◯◯の運び屋だ(爆)。入場行進が終わり、4人がステージに並ぶ。なかなか、すごい絵だ。

岡がマイクに向かってクールに叫ぶ。『四人そろって…!』 全員『サキソフォビア!!!!』

わははははは!いや笑かしてもらいました。つかみはバッチリですね(爆)
演奏が始まれば、今度はその音のデカさにぶっとぶ。いやーこれだこれだこの音だ!
曲ごとに楽器の持ち替えが多く(緑川だけはずっとアルト一筋)、全員フルートが上手い!岡のアルトフルートは絶品だった。篠笛も良かった。バリトンの井上のフルートも美しい音色で素晴らしかった。竹内はフルートでも循環やるし。またバスクラは地底深くから響いてくる怪獣の唸り声のようだ。曲もユニークで『和歌山・こきりこ節』をやったかと思うと、岡の雄叫びヴォーカルが炸裂する『イエスタディ』、ベニーゴルソンのファンクナンバー『キラー・ジョー』など一方的に攻めてくる選曲だ。オリジナルの『バードマンNO.1/鳥人間第一号』が特に良かった。ソロになればみな手のつけられない暴れようで盛り上がること!

竹内が好調で、循環呼吸ソロが最高潮に達すると、なんとその場でグルグル回転し始めた!そのまま竜巻きになって天井を突き破って…いく訳はないが、これは『トルネード奏法』と命名しよう。良い子はマネしないように(笑)。井上のバリトンサックスはやわらくしなやかなサウンドで、今まで聴いた中では音色的には一番かもしれない。色といい、艶といい、音といい、『名器』である。岡のホームページの「オカネット掲示板」で問い合わせたところ、岡本人からレスをいただき、それによれば井上のバリトンは『マーク6の古いやつ』で、鳴りがすごかった緑川のアルトは『たぶんキング』とのこと。

ジャズをベースにジャンルを軽々と越境してしまう岡の柔軟な音楽性は、保守的な見方からすれば特異なものであろうが、自分にはなんら不自然には思えない。たとえばちょっとしたCDショップに行けば、ジャズ、ロック、ポップス、クラシック、現代音楽、民族音楽、宗教音楽など、地球上のほとんどあらゆる音楽CDがある。それらは一生かかっても聴くことができない程の、もう途方もない情報量である。当たり前の様に思えるが、実はこんな状況は、大袈裟にいえば歴史上かってなかったことなのだ。もしベートーベンが現代にタイムスリップしたら、喜びのあまりか驚きの余りか発狂してしまうかも・・いや、しないか(爆)。だって『なにをやってもいい』のだから。・・・まぁ、だからこそ、形式への回帰が重要ではあるのだけれど。岡の場合は表現したいことと、その形式が既成の『ジャズ』の範疇に収まらなかっただけだ。しかし現代は、実はミュージシャンにとっては、大変な時代なのかもしれないな。まぁ、ミュージシャンだけとは限らないが。
追記:オカネット掲示板による岡さんの書き込みによれば、竹内さんには『トルネード奏法』の他に『ディジリドゥー奏法』『ホーミー奏法』があるとのこと。ななな、なんなんだ「ディジリドゥー奏法」って!(爆)。現在、情報提供依頼中。


☆ NHK セッション505篇 (渋谷NHK放送センター)

9/5 川嶋哲郎カルテット 

川嶋哲郎(ts) 石井 彰(p) 安ヵ川大樹(b) 江藤良人(ds)

セッション505はNHKの公開番組なのでタダなのだ。いいことなのだ。で、川嶋哲郎カルテットだが、もう全員とてもいい!特に江藤良人のドラミングは極上!見てない人は早く見るのだ。
今日はハイビジョンカメラが入っているので皆おしゃれである。安ヵ川はラスタカラーのハデハデシャツ。江藤はいつものエスニックなファッションで、オレンジ色のシャツに坊主頭でもあり、『ビルマの修行僧のようですね』と司会の小川もこさん(八等身美人)につっこまれていた。サックスとピアノの二人はリズム隊とは対照的に黒づくめ。川嶋と安ヵ川は同じ富山県出身で、さらに製造メーカーの営業経験者ということで『似ているんです』という。そのトーク中もカメラのフレームに入らない様に水を持って来たスタッフにも目礼を欠かさない川嶋哲郎は気配りしすぎ!(笑)。

コルトレーンから(意識して?)離れようとしているのか、もはやそういったレベルではないのか、最近の川嶋の演奏はソロを組み立てていく中に、音楽の流れにそった自然なつながりが聴かれる。特に自由度の高いソプラノにその傾向が強いように思える。テナーの音色は以前のストイックな印象もあったオットリンクのサウンドから、ヤナギサワ・メタルになってよりワイルドになった。さらに奥行きが増してひとつ突き抜けた感じがする。ソプラノにはウェイン・ショーターのほのかな香りも。・・・現在進行形のバンドなので、今後も継続して聴いていきたい。リクエストとしては、音数を減らしたプレイが聴いてみたいが。

余談だが、収録時間内にピッタリと演奏を収めるのは、『SLASH!』の多田誠司もそうだが、ある年代のミュージシャンにとっては当たり前のことなのか。しかし、別の日の収録で、こぼれまくった市川修さん(p)の不器用さというか無骨さが、かえって男らしくもある。市川修のピアノを広く知ってもらう良い機会なのに、もったいない!と、はがゆく思ったりもするのだが、そういった小賢しい考えは市川さんの頭の中には一切ないようだ。男だなー!でも、ベースのアルコ(弦)ソロを延々やりましたが、ラジオじゃ聴こえないと思うんですけど・・・。


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