MOTOさんの
きまぐれTokyoライブレポートVol.10

 MOTOさんからライブレポート第10弾を送って頂きました。MOTOさん、いつもありがとうございます。この記事に関するご意見、ご感想はゲストブックへお願い致します。


 様々なジャズライブを出たとこ勝負の極私的見解でお伝えしております。お暇な方はご覧あれ。さて今回は新宿ピットイン三連発。山下洋輔も坂田明もテレビではおなじみの顔ですが、小山彰太を加えたメンツにピンときた方はおそらく30台後半以降の方でしょうか。1968年に結成された山下洋輔トリオです(第三次)。フリージャズが燃えていた騒乱の60年代を駆け抜け、そしてなお、走り続けている3人の『今』の音は?・・・で、恥ずかしながら、実は3人とも初聴きであります。

※文中敬称略


◯坂田明 ハルパクチコイダ
2000年1月28日 新宿ピットイン
坂田 明(as、cl)、フェビアン・レザ・パネ(p)、吉野弘志(b)
高良久美子(marimba、per)

 いきなりフラジオを外すのでかなり驚いた。TVで見た坂田明のアルトというとフラジオのコントロールが抜群で、パワー全開鳴りまくり、だったからだ。どうも調子がイマイチと思っていたら曲間のMCで風邪をひいているとのこと。人間だから毎日いつも絶好調!てなわけはないのだが、ちょっと残念。
ま、こーゆう日もアロワナ。 マリンバがガムラン的なパターンを繰り返し、その上を坂田明のアルトが弱音でメロディを綴っていく。リズムや音階から、アジア民族音楽のようではあるが、どうも違う。ドラムレスということでリズムが柔らかく伸び縮みする。静かだが、密度のある演奏が続く。アルトの旋律がうねうねと形を変えながら流れていく。これは、なにかのストーリーを語っているようだ。別の曲では、怪しげなジンタのリズムに乗ってクラリネットが漂いながら、またある物語を話し始めた。『歌への回帰』というコトバが思い浮かぶ・・・。ピアノとパーカッションのデュオの場面では文字どおり『音』で対話している。楽器には曲ごとに『役割』が振り分けられているようで、『音楽劇』のような印象でもある。
 2nd setでは、さっき(休憩時間中に)作詞したという『ミジンコの歌』がでた。♪ミジンコ、ミジンコ、あわててにげる  それでもサカナはへいきでたべる ミジンコにはしけんがないよ  サカナにもしけんがないよ へんさち へんさち かんけいないよ  ぼくらのへんさちひくいのよ いまひとつ元気のない坂田に替わってフェビアン・レザ・パネの不気味ヴォーカルが炸裂。『たま』みたいだが、なんともブラックな不思議童謡だった。近年の坂田明というと『旅人』というイメージがあり、その音の視野も地球的に広いようだ。ミジンコの目から宇宙が見えるのかも知れない(なんのこっちゃ・笑)ミクロからマクロ。・・・異国的でシュール、それでいて何故かとても日本的な懐かしさ、郷愁を感じさせるハルパクチコイダの音楽でした。


◯小山彰太トリオ 一期一会
2000年2月16日 新宿ピットイン
小山彰太(ds)、竹内 直(ts、bcl、fl)、是安則克(b)

 山下洋輔のエッセイによれば、ヨーロッパのジャズフェスで、トニー・ウイリアムスより大受けした日本人ドラマー、が小山彰太だ。
 ピットインに少し遅れて行くと演奏はもう始まっている。1曲目?、2曲目は竹内直のオリジナル、bclに持ち替えて『駱駝の船』、『円周率』と続く。小山はコンパクトなドラミングでフロントの竹内をサポートしているのだが、右手のシンバルレガートの切れ味がすさまじく、なんというか鋭利な刃物のようだ。シンバルの音質は軽いのだがシズル(みずみずしく滴る感じ)があり、まるで日本刀の刀身に水をかけたような・・・うー、今書いていても背筋がゾクゾクしてくる。全体にバランスよくクールなドラミングだが、一瞬ものすごいフィルが入ったりする。月並みだが修羅場をくぐって来た凄みのようなものを感じた(小山のプレイを伝えるのに言葉ではどうにも近づけないもどかしさがある)。ドラムソロでは矯めていたエネルギーを一気に爆発させる。短距離ではあるが凄い迫力だ。これが10分、20分続いたら、そりゃ観客全員ノックアウトだろう。想像以上に間を生かした演奏だったが、山下トリオ時代からもう30年が経っているのだ。
 2nd setは竹内直のbclでドナ・リー、竹内作の7拍子の曲、tsでジミー・ギャリソンのアテンダント、ガーシュインの曲、ラストは美しいfluteの曲だった。
 竹内直はいつもの循環呼吸ソロも決まり、なかなか好調のようだ。全力疾走ばかりでなく、緩急のあるプレイで、このトリオでは比較的自由に音楽を組み立てているような印象を受けた。その竹内は2日後に同じステージで山下洋輔と吹くことになるのだが。

※17才でマイルス・デイヴィス・グループに大抜擢された天才ドラマー。97年没。


◯山下洋輔 UNIT(G4 UNIT)
2000年2月19日 新宿ピットイン
山下洋輔(p)、竹内 直(ts、fl)、水谷浩章(b)、高橋信之介(ds)

 店内は超満員で、補助イスも一杯。カウンターを背にして、ついに立ち見だ。おかげで見晴しが良い。ステージの4人の動きが良く判る。ピアノの鍵盤に額をこすりつけんばかりに覆いかぶさり、猛烈な勢いで白鍵黒鍵を揉みしだいている小柄な男が山下洋輔だ。自身もエッセイに書いているようにその姿は『気違い按摩』そのもの。広げた両腕は鍵盤の上から下までを一瞬のためらいもなく目にも止まらぬ早さで動きまくりころがりまくり揉みまくりツボを押しまくり手刀でたたきまくりトドメに肘打ちだ。
 1st setの1曲目からもう全員が全力疾走で、重く響く水谷浩章のウッドベースは余裕の構えを見せつつすでによじれ始め、あの竹内直が早くも『いっぱい』になってテナーを吹きまくっている。ピットイン初登場という高橋信之介のドラムは、フレーズの引き出しが豊富で、新鮮なプレイ。しかもベテランのような安定感がある。これで20歳?すごい新人が出て来たものだ。
 このニューユニットは当夜が新宿ピットインでは初めての演奏(ちなみにサックスの前任者はアルトの津上研太)。ベースとドラムがボトムで、ピアノと管が上に乗るという構造ではなく、どの曲でも律儀なほど各自に長いソロが廻り、いってみれば4人全員がソロイストという対等な関係にあるようだ。
 1st setは竹内のテナーで『10th テーマ』『カンゾー先生のテーマ』、フルートで『フーガ・ド・ラ・リベラシオン』、テナーに戻り『スパイダー』。この時点で普通のライブのアンコール並に盛り上がっている。
 休憩時間になっても客は一人も帰らない。新ユニットならではの緊張感のある熱演は2nd setの『フォー・デヴィッド・セイク』『フラグメンツ』『パイカジ』と続き、『クルディッシュダンス』で最高潮に達した。
 思い出すのは、もう6・7年前だろうか?NYカーネギーホールでのヴァーヴの記念コンサートに出演した山下洋輔だ。バド・パウエルに捧げるソロピアノを猛烈な勢いで弾きまくり叩きまくった。ミュージシャンも観客もタキシードで正装という、フォーマルかつ和やかなコンサートに、唯一人、山下の鬼気迫る圧倒的な演奏は浮きまくっていた。そのTV映像を見ながら、初めのうちは『うわーシャカリキになっちゃってハズカシー』と思っていたのだが、演奏が終わり大きな歓声と拍手の中で何人かが立ち上がったのを見たら感動してしまっていた(笑)『ヤッター・ヤマシタ!ポンニチをナメンナヨー!』
 確かに音数が多くて音質が軽かったり、超高速フレーズは手癖を超えてもはやオートマティック、とも言えるのだが、全身全霊をこめてピアノにのめりこむ姿の前にはそんな分析はなんの意味もない。山下の人を惹きつけて離さない渾身の演奏は、激しく、やさしく、凶暴で、美しく、孤高ですらある。
 アンコールの『 トンプソン・スクエア・パーク・セレナーデ』(竹内直作曲)で静かにライブは満了。久々に大満足のライブだった。オリジナル曲が多いということは、いろいろな意味で強いと思った。渡邊さんが紹介されているページに、このライブのレポートがあります。
http://www.geocities.co.jp/MusicHall/3707/yosukelive.html
わしも写真とりた〜い!


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