MOTOさんの
きまぐれTokyoライブレポートVol.11

 MOTOさんから久しぶりにライブレポート第11弾を送って頂きました。MOTOさん、いつもありがとうございます。この記事に関するご意見、ご感想はゲストブックへお願い致します。


 『ジャズのライブは最前列で聴け!』をモットーに、様々なジャズライブを出たとこ勝負の極私的見解でお伝えしております。お暇な方はご覧あれ。さて今回はアメリカから待望の初来日!「ジェリー・バーガンジ・カルテット」、そして椎名 豊トリオに5人のホーン奏者が加わった「椎名 豊トリオwith ホーンズ」、新宿ピットインでの毎年恒例「コルトレーンナイト2000」でございます。

※文中敬称略


○ジェリー・バーガンジ・カルテット
2000年6月2日(2nd Night) キーノート原宿

ジェリー・バーガンジ(ts) レナード・チコ(pf) デイブ・サントーロ(b) アダム・ナスバウム(ds)

 派手な活動がなく情報もなかなか入ってこないバーガンジ(イタリア読みだとベルゴンツィ)だが、実力派・中堅テナーとして日本でも認知されていると思う。このライブ告知では『ハードバップの鬼才』と紹介されていた。個人的には『スタンダード・ゴンジ』というアルバムでファンになったのだが、イタリアのREDレーベルや、近年ではアメリカのダブルタイム・レーベルからリリースされている。コルトレーンを踏まえて独自な世界を作り上げてきたのだが、彼の場合その音楽性云々よりもテナーサックスプレイヤーとしての『語り口』の『味』が私にとっては魅力である。今回の初来日はドラムにアダム・ナスバウムという超強力なお土産つきだ。

 2日間のライブのうち最終日、キーノート原宿の横に広い客席は6割くらいの入り。意外にすくないのがちょっと残念ではあるが、ほとんどの客がステージ正面に固まっている。皆、バーガンジが聞きたくてやってきたのだ。

 期待感あふれる拍手の中、中肉中背の白人男が銀色のテナーを持ってステージに登場。演奏が始まると、それはCDで聴いたバーガンジの音そのものだ!あたりまえのことだが、非常に嬉しい。ところが・・よく見るとテナーはいつものセルマーではないぞ。なんとコーンの10Mだ!なぜこんなに驚くかというと・・面倒だから省略するが、持ち楽器が変わるのはサックス奏者にとって大変なことではある。数年前のCDでバーガンジはマウスピースをそれまでのオットリンク・メタルからハードラバーに変えて、音色もモコモコになってしまい、聴く方としては『ナゼ???』と、その真意を計りかねていたのだが、楽器まで変えてしまうとは!しかし、コーン10M(+ハードラバーMP)から出てくる音は、ちゃんとバーガンジの音なのだから不思議だ。メタルMPの頃のブリブリッとした音色が、より渋く(ハスキーに)ぶ厚くなったのは楽器のせいばかりではないだろうが。

 1st setは5曲ほど。1曲目はちょっと吹くのがにつらそうに感じたが、次第に調子が上がっていった。曲間にタイトルを紹介してくれるのだが悲しいことに聞き取れない。『Just Friends』『Wiggy(?)』(綴り不明・息子のニックネームとのこと)など。激しいプレイの後は『いやぁーこんなに飛ばしてたら病気(sick)になっちゃうから(笑)スローダウンさせてもらうよ』(推定・意訳)と言ってアップテンポの曲とスローバラードを交互に演奏する。

 特に感心したのが独特のファズがかかったようなフラジオを交えたワンフレーズがとてもとても長いこと。その長いラインでじわりじわりと登りつめていくバーガンジのソロは饒舌でありながらストイック、という不思議な印象である。テナーがステージ脇に下がると、ドラムのナスバウムが対照的にバスバスドカドカと即物的に叩きまくる。とにかく生で聴くナスバウムのドラムはゴツゴツと硬くて重く、同時にとてもしなやかで、コンクリートブロックと鞭が情け容赦なく飛んでくる感じだ。白いゾナーのドラムセットに座った短髪のナスバウムが『地獄の鬼軍曹』に見えてくる(笑)。CDで耳にするシンバルが『シャラ〜〜ン』と鳴る美しい響きが、実は裏拳(手のひらを返して指の第一関節を使う)だったことも判った。 目立たないがこの対照的ともいえるテナーとドラムの、文字どうり間に立っているのがベースのサントーロだ。サックスが抜けてピアノトリオ状態となると、とたんにドラムの鬼軍曹が元気になって、見るからに若くスーツ姿も初々しいピアノのチコにからみはじめる。テンポやグルーヴを目まぐるしく微妙に変えながらピアノがついてこれるか見ているのだ(そういう時のナスバウムはとても楽しそうだ)。その変化にサントーロは一瞬の間を置いてぴったりと合わせてくる。プロなら当たり前かもしれないが素晴らしいプレイだと思った。このバンドに求心力を与えているのはサントーロだ。

 2nd setも『Out House』など5曲。『Out House』でバーガンジ炸裂。物凄い集中力のあるソロでこの晩のベストだったと思う。客席も大拍手・大歓声。バラードもいい味だしているけど、やはり熱くなって吹きまくるのがバーガンジだなー! ラストの演奏しながらのメンバー紹介は手慣れたもので、きっちりライブは終了・・・と思ったが、客席の拍手は鳴り止まず、アンコールがあった。いやー満足しました。CDを売っていたので買い、バーガンジにサイン&握手してもらう。すごい力で握りかえされた。考えたら1947年生まれの彼はもう50歳を超えているのだが、そんなに老けては見えない。まだまだ枯れる年ではないし、是非また来日してほしいものだ。

 そうそう、売っていたCDはベースのサントーロがリーダー名義の最新録音でした。

※ジャズ・イン・イタリーではバーガンジ(ベルゴンツィ)はイタリア系アメリカ人ジャズミュージシャンとして記載されています。
http://www.geocities.co.jp/MusicHall/1029/


○椎名 豊 SPECIAL NIGHT "トリオ with ホーンズ"
2000年6月24日 TOKYO TUC

椎名 豊(pf) 嶋 友之(b) 広瀬 潤次(ds)
 岡崎 好朗(trp) 池田 篤(as) 山田 穣(as) 川嶋 哲郎(ts) 片岡 雄三(trb)

 椎名豊は、竹内直の『LIVE AT BASH!』というCDで初めて聴いた時に、『マッコイ(タイナー)のようだ』という強い印象を受けた。それから数年、ようやく生で演奏を聞くことが出来た。 この夜のライブは椎名豊トリオにホーン隊が加わった特別編成で、アレンジを聴かせるのかなー?と思っていたら、気心の知れた仲間同志のセッション的な、肩の力の抜けたとても楽しいものだった。

 1曲目「I'll Remember April」でスタート。椎名のピアノはCDで聴いた印象よりも軽やかなタッチでスイングする。さりげないフレーズの中にも強いエネルギーが感じられる。旅帰りの川嶋哲朗はちょっとお疲れのようだったが、ソロになると縦横無尽に吹きまくる。テナーサックス全体が鳴っているようだ(この日はいつものマーク6)。池田篤は相変わらず好調でオリジナリティあふれるソロをとる。『絶好調』ではなく単に『好調』と書いたのは、池田篤のアルトはまだまだこの先どんどんいってしまえるのではないかと感じさせるからで、要注目である。貫禄の出てきたトランペットの岡崎好朗は余裕のプレイ。他のプレイヤーのソロに『yeah!』と声をかけるなど明るいムードメーカーでもある。1曲だけフリューゲルを吹いた。トロンボーンの片岡雄三は初聴きだが、真摯なプレイが光った。同行のKannyさんは『カーティス・フラーの様だ』と喜んでいました。山田 穣はとても良く、音色に深みと厚みが増した。サブトーンで「in a sentimental mood」を吹きはじめた時はその音色の色気にゾクゾクしてしまった。彼のアルトはセルマー・マーク6の筈だが、中音域がコーンのような音色だったのは興味深い。曲は他に「Take the A Train」等。
 セッション的なライブでもあったので、今度はそれぞれのプレイヤーを単独で聴きたい!と思った。

 それにしても空いていた席が最前列だったのは良いが、トランペットの岡崎好朗の真ん前。音がデカイ!!!(@@)ライブ中、何度のけぞったことか(笑)。『ジャズのライブは最前列で聴け!』だけど『ラッパの前はご用心!』ってことで。


◯コルトレーンナイト2000
2000年7月19日 新宿ピットイン
高橋知己(ts,ss)  竹内直(ts,bcl)  安原将生(pf)  小杉敏(b)  石田広嗣(ds)

 新宿ピットイン『コルトレーンナイト』リーダーである京都のドラマー石田広嗣は、毎年夏になると、このトリビュート・ライブのためだけに上京してくる。JR新宿駅の雑踏を抜けて新宿2丁目のピットインまではもう迷わずに来れるそうだ。

 コルトレーンの命日である7月17日の前後に、数カ所で開かれる『コルトレーンナイト』であるが、私は一昨年に初めて聴いた。そこでのフロントの二人の演奏は鬼気迫るものがあった。特に竹内直のプレイは凄絶で、あまりの凄さに客席がどよめいたのがいまだに思い出される。

さて2000年の夏、この夜の曲目は、
1st set Blues Minor、Spiritual、Naima、But Not For Me
2nd set My Favorite Things、Cressent、Soul Trane、Resolution (LOVE SURPREME)
アンコール Blue Trane

 どの演奏もコルトレーンに対する尊敬と真摯な思いが溢れていた。それはまたコルトレーンの音楽世界の精神性と深い部分で繋がっていなければ出来ない演奏であったと思う。

 特に今年は高橋知己のプレイがひときわ良かった。『My Favorite Things』でのソプラノは、コルトレーンが乗り移ったかのような白熱した演奏で、オリジナルのイメージを崩さずに吹きながらも、しっかりと高橋知己自身の表現になっていた。
 『コルトレーンナイト』はまた来年も開かれると思うので、ぜひ聴かれることをお勧めしたい。

☆このライブの詳しいレポート(写真も!)が『ジャズライブ徒然草』さんのページにありますのでぜひご覧ください!
http://www.geocities.co.jp/MusicHall/3707/colnig.html

2000/08/01


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