MOTOさんの
きまぐれTokyoライブレポートVol.12

 今年初の待望のMOTOさんからライブレポート第12弾を送って頂きました。MOTOさん、いつもありがとうございます。この記事に関するご意見、ご感想はゲストブックへお願い致します。


『ジャズのライブは一期一会!ビールもう一杯!』をモットーに、東京のジャズライブを出たとこ勝負の極私的見解でお伝えしております。さて今回はサムつながりの3つのライブ『ピアノとサックスのデュオ』『熱狂!ファンクジャズ』『粋だねージャズフルート』の三本立てでございます。久々に書いたのでちょっと長くなってしまいましたが、お暇な方はご覧あれ。

☆文中敬称略


○アンディ・ベバン(ss.per) ブルース・スターク(pf)
2001年1月29日  吉祥寺サムタイム

 アンディ・ベバンは南半球はオーストラリア出身。テナー・ソプラノ奏者であるがアポリジニの民族楽器ディジェリドゥやパーカッションなども演奏するとのこと。もともとはTsuboさんの友人のピアニスト高田ひろ子さんのCD『a song for someone』で聴いたテナーがとても良くてファンになり、ここ一年ばかり活動をチェックしていたのだが、なかなか聴く機会がなかった。個人的には『待望の』ライブなのである。

 会社を出るのが遅くなり、8時前に店に入るともう1stセットの後半だった。アンディは1mくらいの細長い木の棒を2本取り出して『これはハーモニクス・フルートです』と流暢な日本語で説明する。フルートというが唄口部分はリコーダーの様だ。逆V字に構えて2つの唄口をいっしょにくわえて吹きはじめると、蜜蜂の羽音のような、なんとも不思議なハスキーな音が広がった。素朴でリズミカルなパターンに、ピアノが静かに入ってきて音を紡ぎ出す。アンディは途中から銀色のソプラノサックスに持ち替える。その最初の一音が素晴らしくいい音!やわらかくて暖かみがあり、しかも土の香りがするといおうか・・。ソプラノというと、ここしばらくはけっこう生なましい音・・突き刺す様な・・を多く聴いてきたような気がするので『ソプラノってこんなあたたかい音がでるんだなぁ』と嬉しくなってしまった。この牧歌的な雰囲気の曲(タイトル不明)で1stは終了。

 2ndセット。サラサラサラとこまやかな雨音が静かに店内に響く。レインスティック(1m以上もある)を持ったアンディがその中空の木の中を流れ落ちる粒子に耳をすませながら雨音をだしている。スタークのピアノがゆっくりと音を探りながらはいって来る。メロディが現れたらそれは“Over The Rainbow”だった。2曲目はスタークのアレンジで“Take Five”。アンディはソプラノを軽快に吹く。あちこちにあるキメがきれいに決まり、二人の息のあった快調な演奏はかなりやり慣れた曲のようだ。

 次は“My Song”。キース・ジャレット(pf)の名曲でソプラノのおいしい曲だな。本家ヤン・ガルバレク(ts,ss)をもっと牧歌的にした感じ。そして“枯葉”とスタンダードが続く。長いピアノのルバート。スタークのピアノは所々クラシックっぽい印象を受けた(※)。ここらへんで『なんでオリジナルをやらないのか?』という疑問が頭をもたげてくる。ラストは“Body and Soul”。う〜んなんかお店の客層を意識してスタンダードを並べたのかな〜。

 アンディのソプラノはやわらかで暖かで、すべての音域が安定して鳴りテクニックも素晴らしい。センスが良くあまりアウトしない演奏なのだが、こういう選曲だと、例えばストリングスをバックにしたほうがその音色が際立つのではないか思った。またせっかくいろいろな民族楽器があるのだから、それらを生かしたオリジナルを聴きたかったが、それはおそらく彼の別のグループ『タトパニ』で聴けるのだろう。テナーが聴けなかったのは非常に残念ではある。

 吉祥寺サムタイムはジャズなんて関心ないという客のグループが入ってきて演奏そっちのけでおしゃべりしたり、ソロの途中で帰ったりと、プレイヤーにとってはキビシイところもあるのだが、それでもどんどんやるときはやってほしいものだ。と思っていたら後日同じ場所ですごい演奏を目にすることになる・・。

※調べてみたらブルース・スタークはクラシックフルートの工藤重典や藤井香織、チェロの長谷川陽子などど共演してCDを出しているのであった。クラシックをベースにジャズ、さらに越境してワールドミュージックまで視野にいれた広い音楽性をもっているピアニストのようである。


○Goo Punchi! with Chaka
2001年2月3日(節分)新大久保サムディ 

渡辺ファイアー(as) テディ熊谷(ts) 松尾ひろよし(gt)
竹内 "sexy" 勝(dr) 今福知己(el-b) ケンケン(perc) 大久保治伸(kb)
☆Special Guest  Chaka(vo)

 地下への階段を降りると、すごいすごい、サムディは超満員だ。今日は東京リーダーズか?マスターとスタッフは厨房でてんてこ舞いである。頼んだフライドポテトがでてくるまで40分かかった。まーそんなことはどうでもよろしい。女性客が多い。おおっ可愛い子があちこちにっ(^^)いや〜〜GooPunch!、すごい人気である。

 1st セット 1曲目、ファンキーな熱い曲(なんか意味不明?)が大音量で炸裂。フロントに並んだテディ熊谷のテナーと渡辺ファイアーのアルトが吠える。ソリがバシバシ決まる。テナー→アルト→ドラムとソロが回り、挨拶代わりにしてはいきなりのハイテンションだ。エンディングから間髪いれず2曲目へ。テナーはフルート、アルトはソプラノ(ニーノ?)へ持ち替え。フルートソロでのテディ熊谷は眼前の空間の一点を凝視し続けている。キーボードの大久保はオルガンの音色でのソロから突然コズミックウエーブサウンドになるという荒技を出す。始まったばかりなのに早くもロープ最上段からダイブという感じ。

 怒濤のように2曲が終わり『こんばんわグーパンチです!』というMCが入ると思ったらなんとそのままドラムの竹内がビートを刻みだし3曲目へ突入。うねるような今福のベースがとても良い。『ファンクはベースが命!』と思っているので聴いていて嬉しくなってくる。渡辺ファイアーのアルトは非常にシャープですごいテクニックとパワーである。その切れ味の鋭さから密かに『カミソリアルト』と名付ける。これは確かにジャズにもフュージョンにもいないタイプのアルトだなー。フラジオと倍音を交互に出す技などすごい参考になった。3曲立て続けにやって、ようやくMCになる。
(MC部分は記憶を頼りに書いてますのでかなりアレンジはいってます。あしからず)

渡辺ファイアー(ハァハァ言いながら)『なんで3曲目まで・・もう・・2曲やってMCいうたやろ』
竹内 『ごめん』
ファイアー『ケンケン見てみい、汗かいとるで〜・・脂汗を!』(場内爆笑)

 コテコテ関西弁のファイアーとメンバーのやりとりは掛け合い漫才そのままで、ハードな曲をホット&クールに決めまくる演奏とのギャップがすごい(笑)。ファイアーは『牡蠣にあたってサックスのふたりは体調がすごく悪いんですわ』と説明する。

ファイアー『もうろうとしているから・・今ここにいるのは夢かもしれへんて思うんですわ』
テディ熊谷(冷静に)『夢の中ならなんでもできますね』
ファイアー『パンツ脱いだり』
テディ『いけません』(場内爆笑)

 ここでゲストのChaka登場。ますます関西濃度UP。曲は“Watermelon Man”でテナー→アルト→Chakaのスキャット。ChakaはB.B.GROOVEの時よりぐっとリラックスしてのびのびした感じだ。『西瓜売りの男』をゴキゲンに歌い倒した後で、MC。

Chaka『さっき腰に直貼りはってあげたんですよ〜』
ファイヤー『腰痛で』
Chaka『もうズボンおろすんですよ。お尻の線見えて』
ファイヤー『おしりの線のはじまりが』
Chaka『そ〜Bigining of the line!!』(場内爆笑)

 5曲目。快調に演奏は進む。曲紹介がないから曲名が全く判らないのだ(※)
 6曲目。快調に演奏は進む。キーボードソロで大久保がはじける。長いアルトのソロがあり、非常によかった!

 ここで休憩。Chakaさんによるとサックス二人はネタではなく本当に具合が悪いそうだ。そんな状態でよくあんな集中した演奏ができるものだと驚いた。

 2nd セットはアーシーなテーマのミディアムテンポの曲で始まる。アルト→テナー→キーボードとまったりしたソロが続く。2曲目は一転してアップテンポな曲。曲の切り替えが早く、映画のシーンがさっと変わるような絶妙なタイミングである。MCは『今日は節分ですね』

 3曲目でChaka再び登場。いや〜声がよく伸びること伸びること!なんか今まで聴いた中で一番いい感じかもしれない。MCは『グーパンチのアイコラ、Chakaはナオミ・キャンベル?』
 続いて“Mercy Mercy Mercy”。スローな曲だがChakaのヴォーカルがボディブローのように効いてくる。次の5曲目でのChakaのパワフルな歌声には本当に圧倒された。テナー&アルトとスキャットの掛け合い。バンドと歌手が完全に一体化している。MCは『節分の謎:謎だけにわからない』
 ノイジーなギターソロから“Purplehaze”。ここでキーボードの大久保が1mもある大きな定規状の謎の手製楽器を持ち出し、テルミンのような音(ただし轟音)でソロをとる。場内唖然。MCは『節分の鬼は日本歴史の暗部である』
 ラスト7曲目で遊びに来ていた川嵜淳一(tp)が客席から飛び入り(TPOつながり)。ファイヤーはバリトン。2nd セット終了。

 盛大な拍手でメンバーが再びステージへ。アンコールはChaka&川嵜も入り曲は“グーパンチのテーマ(?)”。ここでいままでステージでは目立たずにいたベースの今福が満を持してのソロ。なんと電気剃刀でヒゲをそりながらのけだるげなスキャット・・に場内大爆笑。負けじとギターの松尾が肩越し背面奏法を繰り出す。Chakaのスキャットも交え大盛り上がりでエンディング。

 全力疾走の演奏でもう大満足である。Chakaをゲストに迎えてアレンジもいろいろあった筈なのに、最後までまったく譜面なしであった。ものすごい量の演奏を聴いたな〜という感じ。MCがまた超おもしろくて、文章で再現できないのはまったく残念である。いやー・・ほんと面白かった。あまりに面白くて、なんか虚脱状態で帰路についたのであった。

※曲名についてはGoo Punch!のHPの“HISTORY”↓をご参照ください(たとえば12/29のライブ)
http://www.asahi-net.or.jp/~hm7n-isd/goopunchhis012.htm

=追記(後から分かった曲目一覧表です)=
< 1st stage >
1. Scratches
2. Joel's Domain
3. No Way
4. Watermelon Man/ lyrics by Jon Hendricks version
5. Mary Had A Little Lamb/ Buddy Guy
6. Walk Tall
< 2nd stage >
1. Sunshine Superman
2. Do What You Want To Do
3. Psychedelic Sally/ Horace Silver
4. Mercy,Mercy,Mercy
5. Kissing My Love/ Cold Blood
6. Purple Haze/ Jimi Hendrix
7. Fire Twist
<EN>
Funk Goo Punch!


○シエスタ  小泉明子(pf,vo) 井上信平(fl) 岡部洋一(perc)
2001年2月8日  吉祥寺サムタイム

 今回のお目当ては井上信平のフルート。サックス奏者が持ち替えで吹くフルートはいろいろ聴いたが、ジャズフルート奏者の生音は初めてである。どのような響き・ボリュームなのだろうか?

 7時半に行くと丁度演奏が始まったところだった。いきなり井上の快調なフルートソロ。嬉しくなって思わず拍手をしてしまう。一曲目はラテンナンバー“La Samba”。続いて小泉のオリジナル“Rio de Janeiro Blue”。小泉の声質はウエットな中にも何かしら硬質な響きがあって、叙情的だが甘さに流されないボーカルである。“Tast of Honey”ジョビンの“So Danco Samba”と続く。

 井上の銀のフルートは使い込んだ感じで全体が燻し銀色になっている。中音域はふくよかで豊かに響き、高音域でも音が尖らず、早いパッセージや跳躍も軽快だ。なにより力んだ感じが全くなく、大変リラックスして吹いているように見える。ほとんどマイクに唄口が接しているようで、どんなにリズムに乗って吹いていてもその位置はほとんど変わらない。指の動きも最小限という感じで無駄がない。マイクの使い方は参考になったなー。やっぱりH管が欲しいのう。

 岡部のドラムセットはスネアの右側にフレームドラム(直径が大きく胴が薄い)またバスドラムの変わりに胴の長い太鼓を足下に寝かせてあり、これを左手で叩いてバスドラのパターンを出している。通常のジャズのドラムセットより深い響きのある低音が非常に良い感じである。各種スティックやカウベル、小型シンバル、その他いろいろなパーカッションで曲ごとに様々な『色』をつけていく。まーほんとによくこれだけ変幻自在な音色を創り出すものだと感心してしまった。またニュアンスの付け方が実に繊細である。

 岡部はB.B.GROOVEで聴いたことがあるが、その時は『サンプラーを使うちょっと変わったパーカッショニスト』だったのだが、ここでのプレイは本当に凄いと思った。2ndのラストに10分近いソロがあり、それはもう凄まじくクリエイティブな演奏で完全に圧倒されてしまった。並みのジャズドラマーなら裸足で逃げ出すってなもんだ(過去に凡庸なソロを取った幾人かのドラマーの顔が浮かぶ)。何がクリエイティブかというと、それは演奏にイマジネーションがあるということだ(う〜んクサいセリフ)。客が多かろうが少なかろうが関係ないというというか眼中にないという気迫に満ちた演奏だった。

 5曲目の“Dindi”の導入部で井上はリコーダーを吹いたり、シェイカーを振ったりしている。このシェイカーの振り方が実にカッコ良く、実際リズムにメリハリがついて曲が生き生きしてくる。たまにサックス奏者がシェイカーを振ったりしているのを見るがほとんどが様になっていない。唯一演奏に貢献していたのはサックスマシーンズで見たつづらのあつし(bs)のトライアングルくらいだなー。

 6曲目は昨年10月リリースされたばかりの小泉のCD『シエスタ』からオリジナルの“ヴェルベーナ”。歯切れの良いカスタネットで始まる快速調の曲で、小泉のスキャットとからんで岡部のパーカッションが盛り上がる盛り上がる(一瞬ピアノがこぼれそうになる場面も)。たいへん充実した1st セットであった。

 2ndはハービー・ハンコック→ヴィクター・ラズロの曲と続く。なんだかニューヨークのジャズクラブにいるような・・行ったことないけど(^ ^;)・・あんにゅいでじゃじーな気分(笑)でいると、続くオリジナルの“K2”で急にアフリカの大草原にワープしてしまった。いやK2はカラコルムだからパキスタンか。目の前に広々とした青空が開けたような曲想が心地良い。そして“so gon na michi(荘厳な道)”これは壮大なスケール感を持つ曲で、ピアノとスキャットとパーカッションだけでどんどん盛り上げていく様は圧巻であった。一転してスイング・アウト・シスターズの“Masquerade”でしっかりとボーカルを聞かせる。フルートのオブリガードが実に粋である。そしてラストのラテンナンバーで前述の岡部のダイナミックなパーカッションソロが炸裂!それから井上の熱く燃えるフルートソロもこの夜の白眉であった。

 どの曲もフルートでなければならない、フルートをソプラノでもテナーでもサックスに置き換えることが全く想像できない、この夜のライブであった。いや〜フルートはほんまカッコええわ〜。粋だねー。と関西系江戸っ子となりつつ帰路についたのであった。


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