第2回 近藤和彦さん(Sax)


 第ニ回目は「熱帯Jazz楽団」「オバタラ」をはじめ、数多くのユニットで大活躍のサックス奏者、近藤和彦さんにお話を伺いました。インタビュアーはおなじみの「キャノンボール・あ・誰?」さんです。 内容の濃い、サックスと音楽談議が展開されたようです。長文ですので、ファイルに保存してじっくりお読みになる事をお薦めします。


使用楽器

Sopranino sax :フランスセルマー  SA-II
mouthpiece :セルマー reed ?

Soprano sax :フランスセルマー  M6 #290683
mouthpiece :セルマー(オールド)F reed :バンドレン #3

Alto sax :アメリカンセルマー M6 #139133
mouthpiece :セルマー(オールド)F reed :ヘムケ #3

Tenor sax :アメリカンセルマー M6 #227883
mouthpiece :デイブガーデラ スタジオモデル reed :ラボーズ M

Baritone sax:フランスセルマー M6 #185829
mouthpiece :ヤナギサワ #9 reed :リコー #4

Clarinet :クランポン RC #418377
mouthpiece :バンドレン B40 reed :バンドレン #3

Bass clarinet:クランポン ラジオモデル #20547
mouthpiece :バンドレン B45 reed :ファイブラセル(T.Sax用)ハード

Flute :ヘインズ ハンドメイド・リングキー H足部管 #44774

Piccolo :ゲマインハート #2571

影響を受けたplayer:
John Coltrane, Joe Henderson, Phil Woods, Cannonball Adderley,Jackie McLean, Thelonius Monk, Miles Davis, Herbie Hancock,Kenny Garrett, Kenny Kirkland, Stevie Wonder, Donny Hathaway

お薦めアルバム:
John Coltrane/クレセント、Herbie Hancock/エンピリアン アイルズ、Miles Davis/アマンドラ

個人データ
birthday: 27 May, 1964
birth place: 山梨県甲府市
blood type: A

現在在籍バンド
オバタラ/オバタラ・ラ・グランデ/コスマス・カピッツァ・ユニット/東京ジャズギルドオーケストラ/平井景とNice Guys/火星ルンバ/斎田佳子バンド/熱帯ジャズ楽団/オルケスタ・デル・ソル/バンダカリエンテ/トロピカンテ/野口久和オーケストラ/内堀勝ビッグバンド/角田健一ビッグバンド/エリック宮城ビッグバンド

ホームページ:http://ikebukuro.cool.ne.jp/kaz_k/


 近藤さんとは普段からよく一緒に飲む仲なので、単なる「ダチ」、大阪弁で言う「連れ」の会話になってしまいました。ので、今回は対談です。でも、個人的にはとても楽しかった。近藤さんが標準語なので、つられて「あ・誰?」も、それ風です。


あ・誰?(以降、誰):あ、もう録音されてます。

近藤和彦さん(以降、和):え、嘘?

誰:えっ〜と、青柳誠さんに続いて、第2弾は近藤和彦さんですぅ〜〜〜〜。

和:近藤で〜〜〜〜す。

誰:私との出会いって、まず何だっけ?

和:新宿ルミネホールの「あ・誰?」さんのコンサートにホーンセクションで参加させて頂きました。

誰:そうだね。中路(tbの中路英明さん)が呼んできてくれて。でも私、あの時、中路とも初めてだったんだよ。

和:え?本当に?

誰:シミちゃんの(bの清水興さん)仕事だから、おまかせだったのね。新発売の強いお酒がスポンサーで、飲み放題で、始まる頃にはお客さんみんなヨレヨレで(笑)。いいコンサートかどうかわからなかった。そんなことで、オバタラ見に行って、その後、飲んで騒いで(笑)、間に中島徹(pf & tb)という人がいたりして。そういうきっかけで、比較的最近に出会いましたが。

和:はい。

誰:はい・・録音されてるからって、急に2人ともかしこまってる(笑)。まずsaxとの出会いとか、吹くきっかけになったのは?

和:え〜っと、え〜っと。うちの兄貴がブラスバンドやってて、通ってた中学はすごいブラバンに熱心で、とにかく部員を集めるのに、(部員の)誰々さんの弟とか妹とかっていう人は自動的に入らされるって感じなんです。僕が小6の時に、中3だった兄貴は部長だったんですけど、その仲間のおにいちゃん達とよく遊んでたっす。だから、中学入る前からブラスバンドの人達をいっぱい知ってて、入学するやいなや、知ってるにいちゃん達が来て「近藤はブラスバンド入るんだよな!」って言われて。

誰:それって、体育会系だね。

和:すごい体育会系!だって入学していきなり、こわい先輩が「お前これ吹いてみろ」って、譜面台にエロ本乗せて「え?」なんてオロオロしてると「なんだ、吹けねえのか?じゃぁ正座してろ」とか言われて、そんな滅茶苦茶なとこでした(笑)。

誰:ブラバンに入ることは、半宿命的に決まってたんだろうけど、そこで例えばホルンや、他の楽器じゃなかったのは?

和:それを選んだのは、小学校低学年の頃から、音楽の教科書の裏表紙に載ってるsaxの写真を見て、だいたいaltoの写真が載ってるんだけど、きらびやかで、ごてごてしてて、これはすごい楽器なんじゃないか?って思ってて、あのカーブも実に何とも言えない形だし、ブラスバンド入るなら絶対saxだなと思って始めました。ところが中学入って、saxっていうのは人気パートで、吹奏楽コンクールに出るのには定員があったんだけど、どうしても出たかったんです。学校も休めるし、泊りにも行けるし、それで一年間だけbassやったですよ。wood bassと電気bassと持ちかえで。

誰:やったって、やれるとこがすごいね。

和:いや、入学して二ヶ月ぐらいたって、夏のコンクールに向けて「今回の課題曲は電気bassが必要だ!誰かbassが弾ける奴はいないか?」って言われて、僕はgtもbも弾けなかったのに「はい!」って手をあげて、嘘こいて。

誰:出たいもんだから?

和:そうそう。それでbassを、そう、半年ぐらいですね、やりました。

誰:意外とお調子者だったんですね(笑)。

和:お調子者ですね。・・そんな感じです、saxを始めたころは。って全然saxは始まってないんですけど(笑)。

誰:でも、楽器っていうのはいくら安くても滅茶苦茶に安い訳じゃないでしょ?私の\450のリコーダーって訳にはいかないでしょ?おうちの人は「がんばれ〜」っていう感じだったの?

和:上にもう一人兄貴がいて、二人ともブラスバンドだったので、親は全然驚かず。

誰:自然の成り行きで、受け入れてくれたんだ。

和:うん。でも、楽器は学校の楽器。今は中学生でもみんな自分の楽器使うけど。僕等の頃なんて、自分の楽器使ってる子は一人もいなかった。

誰:ああ、そういうもんなんだ。

和:うん。学校の縄文式saxみたいなやつ(笑)。

誰:なあに?それ?弥生式とか、縄文式とかが、あるの?

和:いやいや、土器みたいな色のぉ(大爆笑)。茶色ぉ〜〜〜い(大爆笑)。一回練習すると手が茶色になるんですよ(大爆笑)。

誰:それって、錆びてるんじゃないの?嫌じゃないの?そんなの?

和:でも、それしかないんだもん。それをね、縄文式って言って。

誰:それおかしいね、縄文式sax(笑)。書いておけばいいじゃない?使用楽器の欄に「縄文式」って(爆笑)。

和:いや、今は使ってないですよぉ(爆笑)。中学1〜2年の時だから。もうねぇ、土から出てきたみたいな色なんですよ(爆笑)。

誰:なんでそうなっちゃうの?拭いたり磨いたりしないから?

和:とにかく、古いんですよ。大体asだったら僕の通ってた学校には3台ぐらいあって、一番いいのは、某メーカーの安〜いやつなんだけど、色はピカピカなんですよ。ラッカーがはげてなくて、それでその次は別のメーカーだけど、まだなんとか金属っぽい色なんですよ。

誰:まだとりあえず・・・戦国時代ぐらいなんだ。

和:で、一番すごいのが・・・

和&誰:縄文式!(大爆笑)

和:本当に何かね、土器みたいなの。

誰:それさぁ、触るとボロボロって崩れるんじゃない?

和:見た目はそんな感じ。色的にはそうなんですけど。一年生はそれ(縄文式)使って、二年生になるとその、まだ何とか金属かな?ってやつで、三年生になると初めてそのピカピカのが使えるっていうんで・・・

誰:嬉しいわけだ・・・でも、懐かしいでしょ?今もしその縄文式を吹いたら、ちゃんとした音が出せる自信はある?その中でのベストの音を。

和:う〜〜〜む。

誰:でも当時は、音も縄文式なんだね。

和:リードも自分で買ったのは三年生になってから。一年生の時なんて、リードなんて変えるもんじゃないと思ってるから。付いてるものを使うでしょ?「リード変えた方がいい」って言われると、部室にリードが入ってる引き出しがあって。大体、誰かが使ったやつなんだけど、それの中から適当に一枚持ってきて(笑)。

誰:すごい選択ですね、狭いというか。

和:三年生ぐらいになるとヤマハにリードを買いに行くんですけど、一枚だけですよ、買うのは。何百円で一枚売ってくれるんですよ。こうやって(光に透かしてみる)見て買うんですよ。見たってわかんないけど、いいのかどうか。

誰:可愛いねぇ・・・ほんとに、可愛いねぇ。

和:僕が今使ってるヘムケっていうのは一箱に五枚しか入ってないから、一度に六箱ぐらい買うんですよ。一箱開けて、いいのがあるとその場で使うけど、なければ次の箱を開けてってどんどん使ってるけど、その頃なんて一枚買って、鳴ろうが鳴るまいが、それを延々使う。それを考えると贅沢になったなぁっていう感じですね。

誰:昔ね、親父(元バンドマン)の友達のtsの人かな?最初「何してんのかな?」って思ったんだけど、野外コンサートの控室で、その人がsax吹いてて「っあぁ!」とか言って何かバキッて折ってる。しばらく吹いて又「う〜むっ!」とか言ってバキって、何だか恐いわけ。私は驚いて「あの人、乱暴者?」って言ったら、お父さんが説明してくれた。で、なぜ箱に入っているものを次々折っているのか、親父が教えてくれたんだけど「もったいないな〜」と思ったのね。で、その時、ボーヤみたいな人が「折らないで僕に下さい」って頼んでた。「よし、わかった」って言うんだけど、長年の癖ですぐ折っちゃう。で、その度にボーヤみたいな人が「あ〜っ」て言って泣きそうな声出してるのがすごい印象に残ってる。何箱かの中の、保留と今日使うのと選り分けてるんだけど、駄目なのは間違えちゃうから折るって言うのね。でも心の中で私は「間違えちゃうって、それはあんた、おっちゃんでしょ?」って思った。置いておけばいいじゃない?別々の場所に。

和:いや、それはね、わかんなくなってくんですよ。人それぞれやり方違うんですけど、例えば十枚リードを吹いて、いい順に並べるのね。最初の一枚を吹いて、これは十枚中三番目ぐらいかな?とか、次を吹いてこれは六番目ぐらいかな?って間をあけて置いていくんだよね。で、これは最高かな?っていうのは一番端に置く。また次吹いて、これはさっきの最高よりもっといいんじゃない?って、自分が思った順に端から並べたつもりでも、わかんなくなってくんですよ。すごくいいと思って一番に置いたつもりでも、また吹いてみると「え〜?これ全然鳴らないじゃん?」って、また一番下に置いて、って延々やるんですよ、折らない人は。だから折る人は偉いっていうか、勇気あるっていうか。その方が多分楽なんでしょうね、選ぶ時は。でもねぇ、仲々折れないですよリード、僕は。

誰:高いじゃない?ちっちゃなものだし、ちょっとしか入ってないのに。全くいいと思えるものが入ってない場合もある訳じゃない?何か改良できないんですかね?

和:改良する液っていうか薬を、某メーカーで売ってたんですけどね、でもほとんど「え?」っていう感じ。改良っていうか、再生する水、ありがたい水、みたいなの。

誰:そういうのがあるんだ。リードってのはバテてくるの?弱くなるの?鳴らなくなるの?

和:バテて、弱くなるんですね、え〜っと、ピッチが悪くなったりとか。子供の成長と同じで、毎日使ってると悪くなり方がわかんないんですよ。少しずつだから。でもある時「あれ?」って思って新しいのを付けてみると、な〜んだリードのせいだったんじゃんっていうことがありますね。

誰:う〜〜む・・やっぱりsaxっちゅうのは縄文式楽器なんじゃない?(笑)ものすごいプリミティブな悩みでしょ?それって、今どき。

和:そうそう。tpとかって、多分すごい現代的な楽器だと思うんですよ、機能とか。

誰:でも自分がバテて来るじゃない?ああいう、こう丸いやつ(マウスピースのこと)で吹く楽器は。AFRIKA(「あ・誰?」がやってるFunk Band)なんかで練習してると、とにかく曲がハードじゃない?だから大体、T.K氏(tb)、T氏(tp)、J.K氏(tp)って順で、タッチの差だけど、バテるかな?で、W氏(sax)は一人「あれれ?どうしたのかなぁ?キミたち?」なんて平気な顔して言ってるよ。


誰:自分も含めてのsax playerに求める条件は?「僕が思うsax playerはこうあって欲しい!」ってのは?

和:う〜〜む。難しいフレーズよりも、音が良いことと、音が良い中でも、これは僕の個人的な趣味ですけど、saxは木管楽器なんですよ。

誰:え?縄文式楽器じゃないの?(笑)

和:見た目はね(笑)。いやいやいや。木管楽器だから、木の音がして欲しいですね。だから、sax吹きに求めるのは、僕の理想でもあるんだけど、例えばpfと二人で何かやろうっていって、pfが何かやりました、僕がsax吹きました。で、それがとってもブレンドされるっていうか、サウンドしてるっていうのが基本っていうかね。それにdrが入ろうが、bが入ろうが、アコースティックなpfにブレンドするっていうのが理想だし、そういう風な人がすごい好き。pfと混じれば、何の楽器にも混じると思うんですよ。例えば滅茶苦茶でかいセットでバキバキたたくdrとか、でかいアンプでパコンパコンに弾くbと混じっちゃってるsaxって、pf と二人になるとpfより勝っちゃうと思う。だから、PA設備とかがなくてもpfとちゃんと二人で出来るsaxになりたいですね。

誰:そうか。良い音っていうことで言うと、いっつもわかんないんだけどね。私って耳悪いんですよ。

和:んなことないっす。

誰:いやいや、本当に。「このギターはいい音がする」とか「このsaxはよく鳴ってる」ということがわからないんです。みんながそんな話ししてると「ふ〜ん」なんて黙ってるけど(笑)。自分自身を鳴らすこともとっても下手で。響く声じゃないから。

和:え〜?そうですか?

誰:通る声だけどね。響く声じゃないから、私の後ろにいる人は私がどんな大音量で歌ってても平気だと思う。でも真ん前にいる人は、はるか向こうにいても、普通に歌っててすっごいよく聞こえるはずなのね。recording studioで、マイクから離れた椅子に座って一回歌ったものを聴いてる時に、次はどうのってマイク通して卓の前の人達と話してて、いつもエンジニアに「あ・誰?、どこにいるの?」って言われるの。「椅子に座ってるよ」って答えると「マイクの真ん前でしゃべってる時と同じレベル振れてるよ」って言われるのね。脅威のノンビブラート、指向性ヴォイス、みたいなことを言われるんだけど。指向性と倍音の鬼で、マイクに入りきらない成分ばっかりの声。マイク通すと自分の声がつまんなくなっちゃうから「よく鳴ってるな」っていう様な声は憧れですね。それからそれがわかる耳、わかる感性っていうのも憧れです。

和:ふ〜む。

誰:saxの人でもそういう人いるじゃない?Black Bottom Brass Bandって、私の息子たちみたいなんだけど、そこにtsのイギーっていう子がいるのね。フレーズが、別にプリプリ吹く訳じゃなくて、若いのに爺クサイ感じなの。でもすごくいいのね。全然派手じゃなくてキャピキャピしてなくて。でもね、イギーちゃんの音はベニア板製のsaxって感じの音なの(笑)。決していい音じゃないと思うの。「よう鳴ってるね」っていうのとは逆にいる人だと思うの。パラフィン紙に包んで吹いてんじゃないか?ってぐらいビリビリ言ってるの(笑)。

和:カズーみたいですね(笑)。

誰:だけど、あの子のプレイ好きなんだ。で、alto吹いてるシンヤは全然違うタイプなのね。シンヤは女の子が好きで、チャラ男で、もっときらびやかで、音もスパーッとしてて。

和:あのね、楽器別性格ってそうなんですよ。tsは硬派なんだよね。asはね、どっちかいうと軟派で、チャラチャラしてて。いつもニコニコしてて。

誰:でも(近藤さんはAltoなのに)客からは「顔色悪くて、地味」って言われたんでしょ?

和:だから、僕はAltoの性格とかは駄目ですもん。

誰:だけど、出来もしないのにbass出来ます、なんて言って調子こいてたじゃない?

和:あれはどうしてもコンクール出たかったんですよ。嘘ついてまでも。その分、練習しましたけどね。一番練習したかもしんないなぁ。

誰:楽器別性格っていうのはあるかもしんないけどね。

和:baritone saxなんてね、一応言われているのは、縁の下の力持ちっていうか。我慢強いっていうか。

誰:あなたも吹いてるじゃないですか?

和:だから、bsで行く時は、そういう気分で行かないと。asのつもりで行くとつまんないもん。花形楽器じゃないから。


誰:私はよくわかんないけど、saxの基礎練習ってあるんでしょ?で、してよかった練習と、別にしなくても良かったっていうのってあります?

和:しなくてもよかった練習・・?

誰:または「この練習が俺をこう変えた」とかいうの。

和:あのね、ロングトーンってまずね、しなきゃって言われるじゃないですか?でも滅茶滅茶つまんない練習ですよ。アホみたいな練習でしょ?で、ある時、僕 Kenny Garrettって仲良しで、彼が「僕はロングトーンをこういう気持ちでやってる」みたいなことを教えてくれて、自分もそういう風にやるようになってから、滅茶苦茶ロングトーンが楽しくなったんだけど。彼はロングトーンやるのに、バラードを吹く気持ちでやってるんだって。だから基本的にはノンビブラートだけど、例えばこの音に来たらすっごいゆっくりビブラートをかけて、部屋を埋め尽くすような気持ちで。でもまた次の音はノンビブラートに戻して、って、すごいゆっくりのバラードを吹く気持ちでやるといいんじゃないのかな?って話しをしてくれて、そんなこと考えてもみなかったから、そういう風にやるようにしてから、ロングトーンは楽しいですね。

誰:そういうのは今もやるんだ。

和:ロングトーンはしますね。ただ単に音がふるえないようにとか、ピッチ大丈夫かしら?ってやるよりも、バラードを吹くようなつもりでね。

誰:なるほどね。Kenny Garrettさんね。

和:機械的ロングトーンじゃなくて、バラードみたいな感じでやると楽しいですよ。

誰:ものごとはやっぱり、工夫だよね。仲々いいお話しですね。

和:あとね、お薦めというか、やった方がいい練習はね、オーバートーン。

誰:オーバートーンって何?

和:倍音。

誰:ホゲ〜〜〜っていってるやつ?

和:・・・・う・う・あ、そ、そうかな?

誰:(読んでくれてる)みんなはわかるから、いいか(苦笑)。私がわからないだけで。

和:プロとアマチュアの音の違いは実はそこにあるんじゃないかって気がする。

誰:ほう!

和:片寄った倍音しか出ないと、やっぱりバランスが悪い音なんですよねsaxって。基本的には不完全な楽器だから、楽器まかせに吹いてるとピッチ悪いし、音も変だし。オーバートーンの練習してあげると、身体が対応してってくれるんですよ。楽器と体のバランスがとれるようになる練習なんですよ、オーバートーンって。だからそれは・・

誰:一生懸命やった方がいい。

和:はい。それは音色とかの為の練習かな?でも、僕は自分の生徒とかに、まずやらせるのは、とにかくsaxの音によく耳を傾けること。TV見たり、コンビニやファミレス行ったりした時って、必ず音楽が流れてるから「あ、saxだ」「わ、変な音」とか「いい音じゃん」って耳を傾けると、自然と音に対する注意力みたいなものが出来てくる。で、アイドルがいると、近づこうとするからうまくなるじゃない?僕なんかは音楽人としての才能は全くないと思ってて、あるのは練習のみと思ってるから。とにかく誰かに近づきたいと思っているうちに自分の中に何かが出来てくるんじゃないかな?って信じてるから。イメージとかすごい大切にしたいですよね。イメージ持ってる人の方が、初心者でもうまくなり方が違う気がする。で、イメージ持つのにアイドルがいるとわかりやすいじゃない?最初はまぁ、真似ですよね?でも真似てるうちに自分の中に何かが出来てくるんじゃないかな?だから真似することはいいことじゃないかなと思うんですよ。例えばCDいっぱい買うお金がなくても、音色とフレーズと分けたら、音色だけだったら、CD買わなくてもTVの中の音とかレストランの音楽のsaxの音とかで、「わ、嫌い」とか「あ、いいな」とかそういうことを思っているだけで、相当耳とかアンテナとか立つんではないかなと思って、それを自分の生徒には常に心がけさせるっていうか、まず、宿題はそれって感じ。

誰:個人的な疑問なんだけど、私は例えばAretha Franklinみたいな声を出したいと思った時期があって、もの真似うまい方だったから、一生懸命ああいう風に出してたのね。でも喉が違うから出ないし、どんどん悪くなってって、ポリープまでいかなかったけど、大阪在住時代の声域は今より1オクターブ狭かった。レコードデビューして何がよかったかって、オリジナルしかやらないからお手本はない。自分だから。で、ある日「あぁ、日本語で歌ったこともあんまりなかったし、でもいいじゃない、私?」って思った瞬間があったの。で、自分の声という意識に本当の意味で目覚めた。たまたま声の感じが似てたからChaka Khanみたいには出せたけど、ArethaやCheryl Lynneみたいには出せなかったなぁとか、そういうのって一種のつまづきだけど、意味のあるつまづき、起き上がるためのつまづきだった。

和:ふむふむ。

誰:それで私は何をやるにも100%の人間だったし、今もそうだから、Arethaみたいな声を出す為の練習は、天才と馬鹿の紙一重的なエネルギーと時間を費やしたのね。でも駄目だった。だけど、悔いが残らないほど練習してつまづいたから、諦めじゃなく乗り越えられたんだけどね。Arethaの声の出し方の練習には意味がないとわかったの。でもsaxはそういうことが出来るの?こういう音を出したいと思って練習したら、そこに行けるものなの?声は持って生まれたものだから、合わない声の出し方に憧れるじゃん?そしたら喉傷めちゃうのよね。

和:saxは物質を使うから、アイドルと同じ楽器で同じマウスピースとリードつければ、他の人より似るかもしれないね。でも後は体の内部の話しで、喉の形も違うし、歯並びも違うし、体の大きさも違うから、決して自分の理想の人と同じにはならないですよ。それがたまたま自分と理想の人とが同じような体型だったりすると、結構似てる人がいますよね。でも、僕が吹いてる楽器を誰かが吹いたら、やっぱりその人の音がするんですよ。その人の体とか、その人のイメージとかの問題じゃないのかな?と思いますね。

誰:やっぱり似てるんだね。とことん、voとsaxって。

和:こんな話しでいいんでしょうか?

誰:営利目的の雑誌では出来ない様なことをする方が面白いんだから、いいんですよ。そうだなぁ、ちょっとミーハーなことも聞いてみようかな?これまで共演したミュージシャンで、すごかった人は?

和:一緒に楽器を吹いた人じゃなきゃいけないの?楽屋が同じとか、そういうのでもいい?

誰:別にいいよ。

和:僕、Joe Hendersonすごい好きで、アイドルなんだよね。

誰:私も好きだよJoe Henderson(「あ・誰?」は2枚アルバムを持っているのだ)。

和:あれこそsaxにしか出せない音だと思う。でね、斑尾のジャズフェスで何度も話せたし、まず駅からホテルまでバスに乗るんだけど、すかさずJoe Henのすぐ後ろの席をとって・・(笑)

誰:やっぱりAltoの性格だ。

和:(笑)そうだね。後ろから頭越しに覗いて見たら、譜面とか念入りにチェックしてて「あ、すごい真面目な人なんだな」と。夜のジャムセッションの時に、広い控室でミュージシャンがいっぱいいて。そこがステージのすぐ裏で。で、Joe Henは控室では一音も出さないんです。saxってリードなめなきゃいけないじゃない?でもJoe Henはしないんですよ。ネックをケースから出して、マウスピースのキャップをとって、水をピュッピュッてはらって、楽器を組み立てて、ステージへ出て、ウォーミングアップ何もしないで吹き出すの。後で聞いたら、自分の部屋を出る時に水道の水をジャージャーつけといて、そのまんまキャップかぶせて。

誰:湿らせてるわけだ。

和:うん。でも普通はそこでちょっとは音を出すんだけど。彼はそのままステージでハラホレヒレ〜って吹き始める。

誰:いきなりね。

和:すごい!と思いましたね。見えないところでウォーミングアップしてるんだろうけど「ステージだから頑張るとか」「ウォーミングアップしなきゃぁ」とかそういう感じが全然なくて、すごい自然な流れなの。で、その時Betty Carterと3人で話したのがすごく嬉しかった。ミーハーですけど。

誰:わかるよ。

和:あとBB Kingと共演した時の、BB Kingのありがたいお言葉。

誰:「今日の説法」みたいな感じ。

和:そうそう(笑)。一言一言が「はは〜っ」て感じで。「ブルースってのは、間違えた音ってのはないんだよ。出したい音を出したらそれがブルースなんだよ」っていう様なことを言って、そんなのって当然のことだし、わかっている様な気もするし、でもなんかBB Kingに言われると「あぁ、やっぱりそうなんですか」って。その時もなんかこう「はは〜〜っ」て感じでしたね。

誰:なるほどね。だけどね、人それぞれじゃない?ウォーミングアップする、しないっていうのも、人それぞれでいいと思うのね。本当にJoe Hendersonさんは凄いと思うけど。私も発声練習したことない。やり方知らないだけなんだけど、いつもいきなりで、大丈夫か?ってきかれる。前にテレビチャンピオンって番組見てたの。和菓子を作る選手権。男性の職人さんばっかりの中に女性が一人いたの。何時間の間にいくつ作れるか?って、何回も勝ち抜きで試合してると、一番すごい人ってのはおのずとわかってくるのね。その女性は、ある時点までは勝ち抜いて来たけど、優勝はできないなって感じだったの。和菓子にもスタンダードがあって、例えば私達ミュージシャンが「All Of Me」って言えば大体みんなが出来る様に、和菓子にも名前があるの。で、その時はお饅頭みたいなのを作ってるんだけど。その人は遅れてるのね。司会が「何番の何とかさんはもういくつ作ってます!」って実況中継して。で、その女性に向かって「もう少しペース配分考えないと今一番遅れてますよ」みたいなことを言ったのね。でもその女性は「ええ、でもいい加減な仕事は出来ませんから」って、その人はその人のペースでちゃんとしっかり作ってたの。結局その女性はそこで落ちたんだけど、私、それでいいんだと思った。「あぁこの人負けてないな」と思ったの。早さ勝負の試合でも、早く作ろうとしてグチャグチャになっちゃったら駄目なわけだしね。だから、いきなり吹く人もすごいし、でも俺はこうやって練習してきたんだからって、何とかの練習をずうっとステージ始まる前にやってってやる人もそれでいいんだよね。

和:うんうん。

誰:それから、Jaye公山って人がいるんですよ、歌手で。その人が歌ったら気圧が下がり、温度と湿度がガーンと上がる感じの濃い人なんだけど。私の大事なshout仲間でね。で、salt(pfの塩谷哲さん)のpf一本で、大阪フェスでイベントがあって。ディズニーの「アラジンのテーマ」をデュエットで歌ったの。すごいイベントだった。し〜んとして、みんな出演者はすごいあがってるし。私一人へらへら〜ってしてて。Jayeなんだけど、何の曲を歌っても彼はすごいhard shouterで、うねったり、粘ったり。でも私その時嬉しかった。「アラジンのテーマ」歌ってるのに、彼はいつものSam Cookeみたいなの。で、また相手が私だから、暑苦しさは満開で、コテコテのサザンソウル・ディズニーなのね。全然Peabo Brysonとは違う感じ。終わってから「お疲れさんでした、でも私達って濃いよねいつも」って言ったら「いやぁ、どんなところでも、自分のスタイルは変えられへんからね」って一言言った。私すごい嬉しかった。メロウなのやノーザンソウル系が好きな人が聴くと「何だあれは?」って言うと思うの。「そんなデロデロのラードで揚げたようなのが『アラジンのテーマ』か?」って言うと思うの、評論家みたいな人は。でもいいんですよ、自分のやり方なんだもん。だからJoe Hendersonさんも「そういうやり方」なんですよね。

和:多分、きっと水で濡らす前にさんざんウォーミングアップはしてると思うんですよ。自分の一人の部屋で。でも、それを目のあたりにしてしまうと、びっくりしてしまいました。

誰:すごい確信だよね、ゆるぎない。saxと自分の関係とか、自分とステージとのつきあい方とか、人前で演奏することが私生活の一部であって。

和:で、Joe Henの好きなところって、素晴しいと言われているミュージシャンはみんなそうだけど、どんなバンドに入っても、常に自分のことしかやんないじゃないですか?Joe Henなんてマイクがあろうが、なかろうが、客に聞こえようが、聞こえなかろうが、っていう姿勢がね。あの人ってBST(Blood, Sweat and Tears)もやってたけど、そういうのやっててもいつも同じ感じ。男!って感じ。それが僕の理想なのかな?


誰:では、みんなにメッセージを。

和:困りましたね。

誰:どんなことでも結構ですよ。今みんな一生懸命練習したり、多分、近藤君よりたくさん試行錯誤中!っていう人が多いと思うのね。とりあえずの自分の音でさえもまだこれから見つけるって人もいると思うから、そういう人へのアドバイスでもいいし。

和:う〜む。そうですね。僕は誰々に付きましたっていうことは、何人かはいるんですけど、レッスン受けたり。でも一人の人にべったり付くのが好きじゃなかったから、色んな人にちょっとずつ教えてもらったんです。とにかく生の演奏を聴くことはすごく大切だと思う。で、もしそのプレーヤーが気に入ったら、平気で声かけて話しをしてみる。「最近どんなCD聴いてるんですか?」とか「楽器何使ってるんですか?」という話しも有りだし。色んな人から色んな情報を聞いて、自分に合うなぁ、納得出来るなぁと思うことだけを情報処理していくと、非常に片寄るかもしれないけど(笑)、でも理想としているところに近づくんじゃないかな?僕は高校生の頃、一日五百円のお弁当代でりんご一個買って、後は貯金して、月に一回ぐらい東京に来て、外人のコンサートとか見てた。ライブ終わった後に平気で話しかけて、実際にそうやってPhil Woodsにはずっとレッスン受けたり、Rick OatsというNYにいる人にレッスン受けたりしてたんだけど、自分がいいなと思う人と色んな話しするのって励みにもなるし、それはお薦め。大体、昔のベテランの人じゃなくて、今頑張ってる人って「saxやってるんです」って言えば「あぁそうなんだ、いいんじゃない?」なんて適当に答える人って少ないと思うし、親身になって話してくれる人多いと思うから、ライブに行ったら話しかけてみるといいんじゃないかな?

誰:なるほど

和:あと練習方法とかはね・・・何でしょうね?

誰:私は極端な人間だから、自分のやり方が全ての人に合う訳じゃないってことはだいぶ前にわかってるけど。自信っていうじゃない?でも、歌手に自信なんか必要なのかなって最近思ってる。私は試験を受けるつもりで歌ってるから、そんな人間に自信なんか必要ないやと。あと今の自分の実力以上に歌おうと思ってないから、全く。普段やってる通りにやればいいと思ってるから。だけど、よく考えたら、そこに至るまでには。「一流のシンガーだと思ったことないけど、度胸だけは一流だ」って、こんな風に人前に公表する場所で言えるのは何なんだろうな?と昨日とか考えたの。「それでも自信ないしビビッちゃうよ」って言う人もいるのに。ただ、自分がこれ迄やってきたことの中で、これだけは胸を張って言えるのはね、歌が好きっていう気持ちは、全ての人がタイ記録になれるじゃない?世界一の歌手になれるかどうかはわからないけど、世界一練習した人にはみんながなれるじゃん。私は17歳の時に親に隠れてhard rock bandやって、18歳でいきなり人のトラで、スタンダードの曲だけはベテラン並みに知ってたから、譜面持ってないけどキーだけわかれば出来たのね。で、キーなんてどうでもいい人だったから、大体女の人のキーで「この曲とこの曲と」ってメモリーで仕事して、急に突然色んなところへ呼ばれるようになって、次の月には、わたし的に売れっ子だったわけ、スケジュールが。で、生意気にもその当時からその気持ちは変ってないのね。練習方法はレベルの低い、空回りに終わった練習とか、ただエネルギーの消耗でしかなかったやり方だったかもしれないけど。でもやり切ったって言えるだけの練習を滅茶苦茶にしてた。今でも生徒さんに、出来ないことがあったら「いつもそこんとこが出来ないね、どうする?」って訊くんだけど「自分なりに解決して、プロとかアマとかじゃなく、今の貴方の歌としてちゃんとしなくちゃいけないよね。で、そこんとこは技術的な問題だと思うけど、どうする?」って訊くんだ。すると「う〜ん」なんて曖昧に答えてる。で「私はそういう時、針が飛んだレコードの様に何回も喉が覚えちゃうまで練習したけど、やってみる?」って訊くと「何回もってどのくらいですかぁ」なんて言ってんのね。一日600回ぐらいかな?数えてないけど。百回やそこらじゃないのよ。何百回ってやるんだ。で、嫌になってくる波が3回ぐらいある(笑)。何でこんなことしてんだろう?と我に返る瞬間もあるけど、乗り越えたら、いつの間にか出来るようになるし、588回目ぐらいでやめちゃったら0だよね。それが「やり切った!」って「まだこのフレーズは自分のものにはなってないけど、とりあえず今日出来ることはやり切った」って思う気持ちが段々と自分の中に芽生えていけば、自信もつくし、また明日も練習する気になるでしょ?「600回っていうと貴方は『え〜?』って思うかもしれないけど、同じ人類としてそれをやった人が目の前にいるんだから、人類として無理なことを言ってるわけじゃないよ、貴方はどうしますか?」なんて訊くんだけどね。

和:音楽の才能がある人って、稀に天才っていう人いるけど、それはあんまり信じないし、自分にそれがあるとは1ミリも思わないし、多分練習する才能がある人だと思うんですよね。練習したもん勝ちだと思いますよ。勝ち負けじゃないけど。例えば、誰かと一緒に吹いたり、ライブ見たりして「この人、俺よりちょっとだけうまいな」って思っても、でもその「ちょっとだけ」って、練習量にするとすごいよね。ごきぶりが一匹いたら何百匹もいるように、練習量にしたら測りしれないものがある。だからとにかくうまくなりたかったら練習するしかないと思います。自分にも今言い聞かせてるんですけど。

誰:世界一の歌手にはなれなくても、世界一音楽が好きで、練習した人には誰もがなれる可能性も権利もある。それがゆるぎない自分を作っていくし、じたばたする中にしか自分はないと思う。苦しんだら、苦しんだ分の自分になれるし。そう思うから、ねぇ。

和:そう、今なんて情報量すごいじゃないですか?みんなプレーヤーはいい人多いし、泥酔してやってる人なんて音楽界にはいないじゃない。情報を得たかったら、いくらでも得られる時代だから。自分がその中で情報処理をしていかなきゃいけないんだけど。多分、近道なんてないですよ。例えば誰かにアドバイスやレッスン受けて、こういう道を通った方が近いよと教えられたところで、近道通ったと思ってんのは自分だけで、本当はそこまで到達してないのかもしれないよね。そこまで行った様な気になってるけど、もう一回そこに行こうと思ったら、人に教えられた道だからわかんなかったりするじゃない?道がわかんないからとにかく歩いてみようって、自分で歩いて歩いて間違えながらでも到達したら、回り道だけど、自分で通った同じ道だったらまた通れるような気がするんですよ。近道なんて考えるよりも、とにかくやるしかないっていうということは、いつも思ってますね。

誰:天才って、一番最初に何か音楽的なことやり始めた時から今日まで、苦にならなかったこととか、成長しないで最初っからうまかったことってあるじゃん?その人それぞれ。それはその人の天才ですよ。天才って成長しないと思う。最初から出来てるから。(美空)ひばりさんの9歳の時の歌を古い映像で見たことあるけど、52歳で死ぬ時とおんなじ!9歳のくせにシナ作って歌ってんの、あの人。笠置シズ子さんの歌を11歳ぐらいで歌った時、本当に子供よ。なのにこんなんなって(くねくねして)歌ってるの。で、歌い方も、あの人以前には演歌ってなかったのよね。あの人以前の和風の歌手は、日本の音楽を唱歌の様に歌ってたのね。でもひばりさんが初めて、いわゆる今の演歌のこぶしとか、うなりとか、粘ったような、あの人があの歌い方をやったから、他の人がもっとデフォルメしたみたいになってったの。ひばりさんは確かに色んな意味で天才だったけど、9歳の時から本質的には何も変ってない。人間としての成長があるから、経験とかそういうことは変っていってる。でも音楽という核の部分のあの人の持ってるものはほとんど変ってない。12歳の時のインタビューの声やしゃべり方なんておばさんだよ。低〜い声でさ。でも、映像に映ってる人は子供なの。これじゃサトウハチローもゲテモノ扱いするよ、ってな感じ。でもね、あの人の場合はそれ(天賦の才)がほとんどを占めてたかもしれないけど、きっと近藤君の中にも私の中にもどっかの部分にあると思うんだ、音楽やれてる人って。天才っていうと語弊があるけど、持って生まれた才っていうのはあると思うよ。

和:まぁ確かに、よく考えてみたら、ブラスバンドで市内で滅茶苦茶有名だったとか、有名じゃなくても、県内では一番あいつうまいんじゃないの?って言われてた人たちばっかりがいる世界ですもんね。

誰:このミュージシャンの世界がでしょ?そうそう。相撲の幕内土俵入りと一緒ね。

和:気持ち悪いですよね?考えたら。

誰:まあ、確かにね。そう言えば、みんなそうだね。私もそう言われてたし。

和:だからその中で、やっぱりこう、やっていくっていうか、日々頑張らなきゃいけないわけじゃないですか?

誰:研ぎ澄まされていくよね、嫌でも。

和:うん。普通の友達とかと話してて「いいねぇ、好きなことだけやって」なんて言われるけど「そんなんじゃないよぉ、大変なんだから」って。

誰:人ってそういうこと言うよね。私もそれ言われる時、前はむかついてたけど。最近はね「いいよ〜」「いいでしょ〜あなたもやれば?」って返すの(笑)。

和:でも、自分が頑張んなきゃって思うので。そう思った人はうまくなるんですよね、きっと。

誰:思った時にちょっとうまくなってんだよ、もう。後は、本当にそう思ったかどうかを証明してみせるだけ。

和:うんうんうん。

誰:私ね、自分のhome pageにも書いてるけど、精神的に影響を受けた人に、北の湖、富士桜、美空ひばり、ナブラチロワ、それで最近、小池修っているのね。富士桜さんはちょっと別の影響なんだけど。残りの4人は、私にとって同じフィールドにいるの。やる前から「勝つ」って決めてる人たちなのね。北の湖さんとナブラチロワは勝負の世界の人だから負けることもあるけど、ただでは負けないし、二回続けて負けない。この人たちは最初から勝利を決めてかかってる。相手が誰であろうと、体調がどうあろうと、場所がどこであろうと「勝つ」って決めてるの。ひばりさんも、この公演を成功させるし、この歌を歌いきってみせるって無意識で思ってる。小池さんもそう。で、決めた時にもう結果は出てるんです。後はその決意がどこまで本物だったかを証明して見せてるだけ。「次がんばりま〜す」とか「やってみま〜す」「うまくいけばいいけどね」っていう(控えめな)気持ちは、日本の国の美徳だったりするけど。私はそれを言わないから生意気だって言われてきたんだ。そういう考え方の良さもきっとどこかにあると思うんだけど、こと音楽に関して言えば、私はそれはやめようと随分前に決めて、みんなに「大それたやつだ」って笑われてきたのね、20年。最近はもうあんまり笑う人もいなくて、寂しいと思うこともあるけど。「かかって来いよ、誰か」って(笑)。でも、それ(勝つって決めて歌うこと)が出来ないこともあるから、余計にそう思って取り組まないといけないんだよね。いくら思っていても、出来ない時もあるもん。

和:なるほど・・・

誰:まぁ、そんなわけでダラダラと私のせいで色々話してきたけど、終わり!


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