第8回 ロングトーン

 管楽器の大事な基本練習のひとつに、長く音を一定に伸ばすロングトーンという方法があります。
なぜ音を伸ばすのでしょう?また何のための練習なのでしょう?
今回はこの問題について考えてみましょう。


ウォーム・アップとビルド・アップ

まず、ロングトーンには2種類あると私は思っています。

  1. 楽器を演奏する前に行う、体をほぐすためのウォーミング・アップ(準備運動)

  2. 音色や音程をつくったり、楽器の響きを均一に鳴らす(ヌクとも言います)ためのビルドアップ(習得練習)

この2つを分けて考えてみましょう。


ウォーム・アップとしてのロングトーン

 楽器をケースから取り出して、いきなりカッコいいフレーズをパラパラと・・・
私達プロの世界でも、良くある情景です。しかしちょっと待ってください。楽器を吹くための体の準備は出来ているのでしょうか?

  1. 呼吸を整える
    サックスは息を使う作音楽器です。呼吸法をチェックします。まず浅い息から横隔膜を動かす腹式呼吸へと、だんだん深い息へと意識を変化させていきます。
  2. 息の流れを作る
    次に、マウスピースをくわえ、mp(メゾピアノ)くらいの小さ目の音で、ロングトーンしてみます。ここでは息の確認をしているわけですので、アンブシュアーは別に力を加えなくても(適正なアンブシュアーでなくても)かまいません。
  3. アンブシュアーを整える
    息が安定してきたら、徐々にアンブシュアーを整え、適正なくわえ方に近づけていきます。

このくらいまでの要素が、ウォームアップでしょう。時間的には体調の良い時で、1〜2分。前の日にたくさん吹いて下唇が疲れている時や、睡眠不足、二日酔いの日などは5分以上かかるときもありますね。私は、たいてい開放のC#の音(これが一番楽器の抵抗感がない音です)でやっています。

この状態はあまり人に聴かせられる物ではありません。1つの音だけを音程とかは全然考えずに吹いているので、時々「お前、何吹いてんの!」的な白い目で見られます。

ビルド・アップとしてのロングトーン

アンブシュアーが確認できたら、日々のトレーニングとしてのロングトーンへと移行していきます。ここでのポイントは、たえず一定のアンブシュアーで、横隔膜の腹圧を感じながら(おなかを絶えず膨らませておくような感じです)、長い音を持続させることによって腹筋や口の周りの筋力を高めていきます。

  1. 音色を充実させる
    小さな音でも良く響く音をめざして、腹圧を掛けていきます。決して大きな音を出す必要はありません。普通の集合住宅で隣近所から苦情の来ないくらいのpp(ピアニッシモ)を出せるようになればしめたものです。大きな音とは単に息の量をふやしてやれば良いだけです。自分の好きなプレイヤーの音色をイメージしながら、近づけていくというのも良い方法です。
  2. 音程をチェックし、アンブシュアーの定着を目指す
    オクターブや4度、5度のインターバルなどを使って、色々な音域をロングトーンしていきます。チューニングメーターを使うのも良いのですが、メーターを見てアンブシュアーを操作してしまうのはダメです。あくまでもアンブシュアーは一定に、腹圧で音程をコントロールするようにしましょう。そうすると音域によって息の使い方が違うということが実感できると思います。
  3. 楽器の鳴りを均一にする
    いろんな音をロングトーンしていると、中には響きにくい音もあるでしょう。そのような音は集中的に響かす練習をします。

ポイント・ロングトーンは何十秒続いたから、上手い、という性質のものではありません。
もうお分かりとは思いますがあくまでも、ブレスと楽器のコントロールをマスターするための練習なのです。いくらカッコいいフレーズをたくさん知っていても、汚い音色や、調子はずれな音程では、全然カッコ良く聞こえないのです。

・全音域をロングトーンしようとすると軽く20分以上はかかってしまいます。時間的に余裕のない方はポイントを絞ってやってみてはいかがでしょうか?1回に5分間するだけでもあなたの音色はだいぶ違ってくると思いますよ。


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