第12回 ファット・リップ奏法

 アンブシュアーの考え方には、大きく分類するとシン・リップ(Thin Lip)と、ファット・リップ(Fat Lip)という2つに分けられます。あまりなじみのない言葉かもしれませんが、その言葉通り、下唇を薄く使うか、厚く使うかという違いがあるわけです。では、どんな風に違うのでしょうか。


シン・リップ(Thin Lip)と、ファット・リップ(Fat Lip)

シン・リップとファット・リップ まず、左の写真を見てください(汚い顔ですが・・・)。左側の上下がシン・リップで、右側がファット・リップのアンブシュアです。一言で違いを説明すると、あごと下唇とを結ぶ「おとがい筋」の使い方が違うのです。

 普通、一般的にはおとがい筋を下げて、あごにうめぼしが出来ないようにという、シン・リップのアンブシュアが良いといわれていますが、歯で噛んで締める、という悪い癖がつきやすいのも事実です。
 一方、ファット・リップは、歯の力に頼らないため、柔軟な音色やボリュームの変化を付け易いのですが、単にゆるいアンブシュアになってしまいがちです。

ポイントアンブシュアーのポイントは、「いかに歯の力を借りずに(歯で噛まずに)締めれるか」これに尽きるのです。どちらの奏法でも以前、説明したようにマウスピースだけで吹いた場合アルトはBb、テナーはAb(いずれもコンサートキー)の音程が取れなくてはいけません。


ファット・リップ奏法の利点

  1. リードを載せる下唇のクッションが厚く柔らかくなるので、大きく太い音になる。またリードの振動を妨げないので薄めのリードでも充分響きを作ることが出来る。

  2. 長時間の演奏でも疲れにくい。

  3. 高音域やフラジオでも音がやせない。

  4. 音色やボリュームの変化が付けやすく、音程のバランスがとりやすい。

  5. 歯(あご)が自由に動くので、上下の動き(ビブラート)や前後の動き(サブ・トーンやパーカッシブ・トーンへのポジションへの移動)が楽に出来る。


ファット・リップ奏法の実際

 ファット・リップ奏法はおとがい筋を持ち上げることによって、歯で噛まずに筋肉でアンブシュアを締めるという奏法ですから、いきなりこの奏法に移行しようとしても口の周りの筋力トレーニングがある程度出来ていないとリードの振動を支えてやることが出来ません。

 第2回で紹介した「アンブシュアー体操」を思いだして下さい。これは、おとがい筋を含む口の周りの筋肉を発達させ、楽に噛まないアンブシュアーを作ろうという体操なのです。
引用します。

1.上下の唇の赤い部分を合わせ一直線にします。(上下唇のエッジをきちんと合わせてください)
2.まず上下方向に思い切り力を入れます(5秒くらい)・・・下あごにうめぼしが出来てもかまいません
3.1.の状態に戻ります。

この2.の状態のままマウスピースをくわえるように口を開けてみてください。うめぼしは出来ずに筋肉の支えだけが残りますよね?そのうえ、いつもより下唇のリードに対するクッションが厚くなっているのもお解りいただけることと思います。この状態の下唇の上へマウスピースを置いてやれば良いのです。いかがですか、ビブラートをかけるのにも歯が動きやすくなっていませんか?

 これが現在、私がこれまで色々試してきて一番安定して吹いていられるアンブシュアーの考え方です。実際に吹いてみると音色も太く且つ柔らかく聞こえると思います。この状態で下あごを軽く引き、下唇をひっくり返すようにすればサブ・トーン・ポジションになり、逆に少し突き出すような感じで、シン・リップに近づけるとパーカッシブ・トーン・ポジションになります。

ポイント サブ・トーンやパーカッシブ・トーンを使うためには、アンブシュア(締め方)を変えるのではなく、一定のアンブシュアのまま歯の前後移動だけでトーンの変化をつけるべきだと、私は考えています。そうしないと音程のバランスがまったく取れなくなってしまうからです。

サブ・トーンを吹くためのアンブシュアがあるわけではなく、あくまでもファット・リップ奏法のバリエーションだと捉えてください。


左からサブトーン、ノーマル、パーカッシブのファット・リップ奏法
(タバコの向きは息の出る方向だと思うと解りやすい)

 もちろん急には出来ないことですので、こんな考え方もあるのか?程度に考えていただければ結構ですが、もし実践してみようという方は、非常にむずかしい問題なので、出来れば適正な指導者に師事されることをお勧めします。


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