第19回 オーバートーン

 前回は喉のポジションについて書きましたが、今回は実際に喉のポジション移動を体得するために有効な練習方法としてオーバートーン(倍音列)の練習をご紹介します。
 金管楽器では、3〜4本のピストンやヴァルブの組合わせと倍音列を使って音程を作っているわけですが、サックスなどの木管楽器ではそれぞれの音に固有のフィンガリングが存在するために、普段倍音を意識することはあまりないと思いますが、実はこれが奏法上の重要な要素なのです。


1.基本練習

 まず最初に練習することは、サックスの最低音であるBbの音から運指はそのまま変化させずに1オクターブ上のBbを出す練習です。
実際に吹く前に声を出してハミングで歌ってみて、喉の変化を観察してみましょう。オクターブ上に上がる時には喉が開く(喉ぼとけが前に出る)のが分かりますか?分かりにくければ人差指を喉ぼとけの上に置いてみて下さい。感じがつかめたら楽器で音を出して試してみましょう。
(O.T.はオーバートーンの略です)

最初のオーバートーン

この時に注意することは、アンブシュアーの圧力を変えないことです。口を締めたり、歯で噛んで出すのではありません。あくまでも喉の変化でオクターブ上の音へ移動しましょう。
最初は上手くいかないと思いますが、コツがつかめるまでじっくり練習してください。ハミングしているつもりで喉のポジション変化に集中して下さい。

息のスピードも若干速くしてやる必要もありますが、馴れてくると本当に喉の変化だけで移動出来るようになります。

2.本来の運指の音と比較する

 基本練習が上手く出来るようになったら、次はオーバートーンと本来の運指で得られる音とを比較していきます。基本音やオーバートーンは、楽器のトーンホールを全部ふさいだ状態ですから、当然振動している管の長さが長く、豊かな響きが得られる訳です。本来の運指の音はそれに比べると管の長さも短く、響きも貧弱に聞こえます。
この差をなるべくなくして補正してやることがこのトレーニングの最大のねらいです。オーバートーンの喉の状態を保ち、本来の運指で得られる音を太く、豊かに響かせオーバートーンに近づけていきましょう。
(N.F.はNormal Fingaringの略です)

1stOT

上の譜例のように基本音〜オーバートーン〜本来の運指で得られる音〜オーバートーン〜基本音というサイクルで練習していきます。ブレスが足りなくなった時には中断し、その個所から続行して下さい。最終的にはワンブレスで早く移行出来るようにしていきます。

3.音域の拡大

 第1倍音(1st O.T.)が上手くコントロール出来るようになったら、順次第2、第3と音域を拡大していきます。第2倍音は次のようになります。

2ndOT

倍音列は以下のようになります。

倍音列

高音になるほど喉のポジション移動は微妙になっていきます。アンブシュアーの力は変化しませんが、喉のポジションが変わることによって下の歯も少しづつパーカッシブ・ポジションより(前へ)に移動していきます。

4.基本音を変える

 Bbの基本音が第3倍音くらいまで出るようになったら、同じように低音のBやC、C#を基本音としたオーバートーンにもチャレンジしてみましょう。
馴れてくると左手小指のテーブルキーの移動だけで(金管楽器のように)ほとんどのメロディーが吹けるようになる筈です。(決して音楽的ではないとは思いますが・・・)テナー奏者のマイケル・ブレッカーなどはよくこのようなトリッキーな演奏をアクセントとして自分のソロの中に取り入れています。


 この練習は非常に地道な積み重ねの練習です。根気強く継続することが一番大切です。
私自身も最初は全然出来ずに、諦めかけていたのですが、ある日突然、急に出来るようになりました。
 オーバートーンをしっかりマスターし、喉のポジションが把握出来ると、高音域でも音がやせることなく全音域に均等な音色感になりフラジオも安定して出るようになります。
柔軟な喉の変化を覚えて、ワンランク上の音色を身につけましょう。


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