第30回 新製品試奏レポート
セルマー・シリーズIII
アルト・サックス:定価¥385,000(彫刻付、ラッカー仕上げ)

 以前から出るぞ出るぞ、という噂ばかりが先行していたアルトのシリーズIIIが去る11月15日、ついに正式に国内発売になり、その姿を現しました。その特徴と試奏感をレポート致します。


 まず、ぱっと見て感じることは、座金(管体の上でキーポストの支えとなる部分)が随分減ったなぁ、と言うことです。目で見て分かるくらいですからさぞかし抵抗感が減っているんだろうなと、容易に想像できます。
 また右手サムフック、左手サムレストが金属に変更されており、左手サイド(パーム)キーはやや小さめになりかなり上の方に付いている感じになっています。
両手小指のキーも薬指に近くなっていて操作性はかなり向上しているといえるでしょう。今までのマークVI〜シリーズIIを使っている人がはじめて手にすると、多分ものすごく違和感を覚えるくらい変更されています。噂の高音Gキーは採用されなかったようです。

 本体の変更で一番特徴的なのは、開放C#音の音程補正機能が付いた事です。今までの楽器の最大のウィークポイントであった開放C#音が低いという点を見事に克服しています。これは画期的なシステムだといえるでしょう。
しかし、そのためにメカニズム的にはかなりゴチャゴチャしてしまったことも否めず、まさにリペアマン泣かせの楽器とも言えるのではないかと思います。
この機構は開放C#音の時に左手サムレスト横につけられたタンポが開くというものです。このため今まで音程を上げる補正用に使っていたオクターブ・キー+左手薬指というフィンガリングをしてみると音程が逆に下がってしまい使えませんでした。この運指に慣れ親しんでいる人にとっては脅威となるでしょう。

 次にネックですが、これも大幅な変更がされています。内径がやや細くなり、その分長さが長くなっています。そしてネック前面にあったプレート状の座金もなくなっています。角度も今までの楽器よりもアールが大きくなっています。息を効率的に楽器本体に伝えようという工夫ではないかと思います。また、シリーズIIの中期から無くなっていた一番マウスピースに近いネックの入り口のリング状の響き止めが復活されています。
オクターブキーのホールもコルク寄りに変更されています。またネックコルクについてなのですが、コルクの長さは今までの楽器とあまり変わらないのですが、上に書いたように設計自体がかなり変更されている為、マウスピースをかなり深く差し込まないと正確な音程が得られません。私も試奏時には、セルマーS-80のDとオットーリンクメタル7*で吹きましたが、どちらもコルクが全部隠れるくらいまで差し込まないと音程が取れませんでした。皆さんも吹かれる際にはこの点には充分ご注意下さい。今までと同じ感覚でマウスピースをセットすると音程がかなり低くなってしまいバランスも悪くなってしまいます。

 さて、実際に試奏した感想ですが、予想通り抵抗感が少なく良く鳴ります。反応も早く、低音のタンギングも楽です。比較した楽器はシリーズIIのラッカー(彫刻あり)と、私のアメセルマークVI(14万番台ラッカーハゲハゲ)ですが、一番ボリューム感がありました。音色も一番明るく、良く響きます。鳴り方はヤマハ・カスタムに近いなという印象を持ちました。シリーズII特有のやや息の抵抗感のある明るさや、アメセルの芯のある音とは全く違う、良くも悪くも今風のクセの無い音だといえるのではないでしょうか。音程の設計も素晴らしく良いです。研究され尽くされた楽器とも言えると思います。
 「本当に効率良く息が音になっているなぁ!燃費が良いんだなぁ!」というのが素直な感想です。好みによって意見が全く分かれるとは思いますが、私はどちらかと言うとクラシック・プレイヤーの方に好まれる楽器ではないかな?と思いました。かといってジャズやフュージョンには向かないということはありません。マイク乗りの良い歯切れの良い音ですから、1度吹くとこのシリーズIIIのボリューム感溢れる音のトリコになってしまう人も多いのではないでしょうか。

 気になる入荷状況ですが、私が試奏した三木楽器心斎橋店の話によると、発売開始とはいえ現在在庫は店頭にある1本だけで、サンプルとして展示しているような状態なので試奏は可能ですが、売る事が出来ない?という状態で多分年内は予約のみの受付け、もしくは12月中に多少本数が入るかもしれない、ということでした。国内の主要楽器店でも同じような状況らしいので、本格的に流通しだすのは年明けと言う事になりそうです。皆さんもボーナスは大切に貯金しておいた方が良いかも知れませんね。
 また、シリーズIII発表と共に11月15日よりシリーズIIが値下げになり、ラッカーの彫刻付が345,000円、GPトーンが399,000円という定価設定になっています。彫刻付でも値引き次第では30万円以下で買えるシリーズIIをこの機会に、というのもひとつの手かもしれませんね。


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