第35回 チューニング

 メールでチューニングと音程のバランスの取り方に関するご質問を頂きました。今回はこの問題を取り上げてみようと思います。もちろん各楽器メーカーは音程を完璧に近づける努力をしているわけですが、サックスは元々独特の音程のクセを持っているのです。


 チューニングは基本的には基準音(ピアノに代表される固定楽器)を耳で聴いて高低を判断し補正する、というのが望ましいと思います。初心者の方にとっては自分の音が高いのか低いのか、ということ自体が分からない方もいらっしゃるでしょうから、そのような場合にはチューニングメーターを使うと目で判断できるので便利です。

次に音程のバランスについてですが、まず下の表をご覧下さい。

サックスの一般的な音程の傾向
(上段は音名、下段は音程の高低を矢印で表しています)

LowBb LowB LowC LowC# LowD LowEb LowE LowF LowF# LowG LowG# LowA
       
MidBb MidB MidC MidC# MidD MidEb MidE MidF MidF# MidG MidG# MidA
       
HighBb HighB HighC HighC# HighD HighEb HighE HighF HighF#
     

使用する楽器やマウスピースの組み合わせによって若干の違いはありますが、概ね上の表のような傾向があるということができます。

一番のポイントであるのはオクターブ・キーを使わないG#〜C#はやや低くオクターブ・キーを押さえたD〜Eは高くなるというところです。ですからこれらの音を使ってチューニングをすると、G#〜C#で合わせると、それ以外の音は全体に上ずってしまいます。またD〜Eあたりを基準にすると逆に全体的に低くなってしまうわけですね。

そこで私はオクターブキーを押さえたB音(アルトではコンサートDの音ですね)を交えてチューニングすることをお勧めしたいと思います。比較的抵抗感が少なくて、安定感のあるこの音でチューニングを行い、低くなるオクターブキーを使わないA〜Cは高めに持ち上げる、オクターブキーを押さえたD〜Eは逆に低めにロングトーンしてやって、地道に音程を作ってやる。という方法です。
このB音だと、右手で鍵盤を叩きながら吹けるというメリット?もあります。

私は教室で生徒さんの音程をチェックする時はアルトの場合、まずオクターブキーを押さえたF#(コンサートA)音をチェックし、次に先程のB(コンサートD)音、オクターブ下のB音、その下のF#音という4点で行います。テナーとソプラノの場合はまずオクターブキーを押さえたB(コンサートA)音、F#(コンサートE)音、オクターブキーを離したB音、F#音の順です。
どちらも必ずコンサートA音から入るのは、やはり業界標準万国共通のチューニング音ですから、これに慣れる、という意味合いもあります。ちなみにA=442Hzにチューニングした電子ピアノで普通のピアノの音色で行います。

ほぼ正しいチューニングが出来たら、ボールペンでネックコルクにマウスピースの位置をマーキングします。これは生徒さんが家で練習する時にも正しい音程で演奏できるようにするためです。常に正しい音程で楽器を吹き込まないと、それこそとんでもない音程の楽器になってしまうからです。音程というものは楽器が製品として持って生まれた要素よりも、吹き手がどんな音程で吹くか、という後天的な要素の方が大きいということなのです。

チューニングメーターのメリットとデメリット

最初に書いたようにチューニングメーターを使うと目で音程の判断ができるので楽器を吹く人には誰もが持っていて欲しいと思います。特に音程を補正するロングトーン練習などには欠かせません。
しかし、チューニングメーターに頼りっきり、というのも感心しません。音楽はステージに立って演奏する場合、必ず他の楽器とのアンサンブルになるわけですから、周りの音程と自分の音程とを自分の耳で客観的に聴いて合っているか、ずれているかを感じれるかどうか、ということが一番大切なわけです。聴いて合わせることが出来るようになるためには普段から注意深く聴いて判断できる耳を作っていく必要があるということです。

チューニングメーターはあくまでもチェックに使う物であって、それに振り回されてはダメというわけですね。また、メーターに合わせようとするあまりアンブシュアを崩してしまう、という可能性もあります。注意してください。練習中に電源を入れておき、気になるところでちょっと見る、位の使い方が良いのではないでしょうか?


バック ホーム 次へ
前のページへ よもやま話のトップへ 次のページへ