第14回 サブトーン

 第12回のファットリップ奏法の項でもちょっと触れましたが、ポピュラーやジャズでは多彩な音色を使い分けることが良くあります。グロートーン(エレクトリックギターのディストーションサウンドのような歪ませた音)やサブトーン(かすれたような音)パーカッシブトーン(アタックの強い破裂音のような音)など、いずれも特殊奏法の部類に入りますが、今回はその中でも良く使われるサブトーンについて書いてみたいと思います。


サブトーンってどんな音

 「ズズズズ〜〜」というようなちょっとかすれた、息の音が混じったムーディーなサックスの音を聴くことが良くあると思います。ソニー・ロリンズやスタン・ゲッツ、スコット・ハミルトンなどテナー奏者が良く使っています。ちょっと古いところではサム・テイラー、シル・オースティンなどという「魅惑のテナー・サックス」という言葉が使われたムードミュージックもこのサブトーンが聴ける格好の教材です。
別にテナーに限った奏法ではなく、アルトやソプラノでもMALTAやKenny-Gなどいろんなプレイヤーが低音のメロディーをソフトに響かせたい時にこのサブトーンを頻繁に使っています。

ポイントビッグバンドなど、サックス・セクションのアンサンブルで演奏する場合はこのサブトーンのテクニックは必修です。曲中の静かな部分でユニゾンでメロディーやカウンターラインを演奏するような場面では、必ずと言って良いほど楽譜にサブトーンで(sub tone)という指定があります。

 余談ですが、楽譜上でsub.と書かれている場合もあるのですが、スビット(急に)という表情記号と間違ってしまうことが良くあります。sub.Pなどと強弱記号の前に書かれている場合はスビット・ピアノ(急に小さく)と解釈して下さい。サブトーンの指定ではありません。


サブトーンの実際
第12回ファットリップ奏法とあわせてお読みください)

1.ノーマルなアンブシュアーの状態から下の歯(あご)を軽く手前に引くと、下唇とリードとの接する面積が広くなります。(この時下の歯の上にはほとんど唇はかぶっていません)下唇をひっくり返してリードの振動部分をミュートして先端だけを振動させてやるわけです。

振動イメージ
リードの振動する部分のイメージ

2.この状態でゆっくりした息(寒い時に手を温めるときのハァ〜という感じ)で吹くとサブトーンが鳴ります。注意するのはアンブシュアーを緩めて吹くのではないということです。かすれた音が出始めたら息のスピードを早め、よく響かせるようにします。音程が下がってしまっていないかどうか、チューニングメーターで確認しながら吹いてみましょう。

3.最初は低いソ(G)の音くらいから練習すると良いでしょう。良く響くサブトーンが出るようになったら、徐々に半音ごとにスラーで(タンギングせずに)下がって最低音までいきましょう。低音でスムーズにできるようになったら、今度は高音へ向かって音域を拡大していきます。

ポイントサブトーンを使うとソフトな表情をつけることが出来ます。しかし楽器の奏法の基本はあくまでもノーマルトーンです。絶えず平行して練習しましょう。
低音を小さな音で吹こうとすると無意識にサブトーンになってしまう人もよくいますが、これでは失格です。あくまでもコントロールできることが絶対条件です。

サブトーンは楽器自体も良く振動するため、音ヌケの悪い楽器を響かす時にも有効です。最低音のあたりをサブトーンを使ってロングトーンしてやると、楽器全体が振動するようになり、いわゆる良く鳴る楽器へと状態が変化していきます。


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